2022.8.25(thu)こっそりハンバーガー
昨日作りすぎたそうめんが残っていた。よって昼もそうめん。それでもまだなくならない。
「今夜は煮麺ね」
母が大量に残るそうめんを見つめて呟いていた。
ただでさえ、そうめんの海に呑み込まれている。それが次には菜都奈の苦手な煮麺に姿を変えるときた。菜都奈はどうにか回避しようと策を巡らした。
その結果「夜は友達と会うから……」と濁して、菜都奈は外出に成功した。煮麺の匂いが既に家中に満ちている時だった。
「はあ、危なかった……」
菜都奈は汁に浸る麺が苦手だ。そば、うどん。ラーメンはなぜか平気だけれど。食べるのが遅いと最後は強制的に伸びた麺を食べることになる。小学生の頃までは気にしていなかったが、中学生になった頃から柔らかい麺自体が嫌になった。
今夜は小雨が降っている。透明の傘はだんだん雨粒のヴェールに覆われ、菜都奈は急ぎ足で駅前のファストフード店に入った。電気が煌々と点いているハンバーガー屋だ。
菜都奈は夜限定のメニューを眺めて、一番安いセットを頼んだ。時計を見ると二十時を少し過ぎた頃だった。
菜都奈はハンバーガーを受け取ると二階の窓際のカウンター席に座り、ぼんやりと雨を見つめた。店内は夏休みにはしゃぐ高校生や勉強をする大学生、サラリーマンや、幼い子供を連れて来ている主婦もいる。
と、視界の隅に見覚えのある男性が座っていた。
「……うわ、担任だ」
菜都奈は気付かれないように、そうっと覗く。
菜都奈のクラスを受け持つ高倉は三十代ですらりと背が高く、生徒からの人気もある。けれど菜都奈は少し苦手だった。学校で会う分にはいい教師ではあるのだが。
「高校生という生き物」として接してくる他の教師と違い、高倉は一人一人の生徒と目線を合わせて話す人だ。だからこそ夜のファストフード店に一人でいるところを見つかったら色々面倒だった。
「早く帰りなさい」と言われるだけでは済まなくなる。
菜都奈は雨の降る外に視線を戻して、ハンバーガーを頬張った。高倉は気付いた素振りもない。一人で黙々とハンバーガーを食べていた。菜都奈と同じだった。
窓ガラスに当たる雨は菜都奈の姿を歪める。菜都奈はポテトを摘みながら頬杖をついた。
一人で食べると少し味気ない。
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