2022.8.24(wed)線香花火



葉月が家で花火をやるというので遊びに行った。

菜都奈の家の最寄駅から三駅先。駅から十分ほど歩くと葉月の家だ。菜都奈はコンビニで買った花火セットを片手に夜道を歩いた。夏の夜特有の水っぽい空気に肌がベタつく。


葉月の家からは賑やかな声が聞こえていて、インターホンを押そうとした菜都奈に気付いた葉月が「菜都奈〜!」と大きな声で呼んだ。

「やっときた〜! 庭まで回ってきて!」

「お待たせ、もう始まってるの?」

「良平先輩が勝手に始めちゃってさ。竹ちゃんと雛美も十分くらい前に来てて。遅いよ〜」


「ごめんごめん。そうめん茹でる量間違えて食べるのに時間かかった」

「やば、うける」

葉月は菜都奈の他に硬式テニス同好会の仲間たちを呼んでいた。良平と呼ばれた男の先輩は苗字を木下というらしい。すすき花火を両手に持った木下は犬みたいに庭を駆け回っている。竹と雛美は菜都奈も見たことがあった。隣のクラスの人たちだ。


菜都奈は水を入れたバケツの隣に花火セットを置くと、線香花火を取り出した。すすき花火は見目には楽しいが、自分でやるとなると火の粉が怖い。

「あ、線香花火だ。私もやりたい。いい?」

はにかんで隣にしゃがんだのは雛美だ。菜都奈が一本渡すと、隣にもチリチリと橙色の花火が点る。菜都奈が雛美の目に映る線香花火を眺めていると、

「知ってる? 今度の土日の花火大会の噂」


「? 知らない」

「八月の終わりの花火大会って結構大きめのお祭りでしょ? 花火もいろんな種類のやつがいっぱい打ち上がるんだって。それでね、その中でもハートマークの花火があるらしいの。そのハートマークの花火が打ち上がった瞬間に告白して結ばれたカップルは一生幸せになれるらしいよ」

「へえ……雛美ちゃんは誰かいるの? 相手」

「ううん、まだ全然。良平先輩はああだし、竹ちゃんはそういう対象に見れないし……難しいよね」


真剣に悩んでいる雛美は落ちた線香花火をバケツの水の中に落とす。菜都奈も二個目の線香花火が落ちるとバケツに沈めて立ち上がった。雛美は未だに走り回っている木下を冷めた目で眺めながら、

「あーあ! クリスマスまでには彼氏欲しいなー!」

曇り空の上に輝く月に向かって、両手を伸ばした。

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