2022.8.22(mon)夜のコンビニ


今日は一日中寝転んで漫画を読んでいた。菜都奈は余韻に浸りながら、夕飯を食べ、風呂に入った後で、コンビニに行く用事があったと思い出した。

「チケット発券してこなきゃ……風輝もコンビニ行く?」

「行かない」

つれない風輝の返事にそれもそうかと思い直す。菜都奈は乾かしたばかりの髪を結って外に出た。


八月下旬の夜の風はまだぬるい。

等間隔の街灯と住宅街の門柱の明かりで、夜とはいえ眩しいほど明るい。空を見上げても星は霞んでいる。

コンビニは月よりも眩しく、中に入ると冷たい風が気持ちいい。


菜都奈のチケットは漫画の原画展の入場券だ。ついでにラムネを買ってコンビニを出ると、そこには見知った顔がいた。

「あ、柊先輩」

もう二十一時になるというのに、柊はまだ外行きの格好をしている。菜都奈に気がつくと人好きのする笑顔で片手を上げた。

「久しぶり。や、一昨日会ったらしいね? 寝てて気づかなくてごめんね。今は一人?」

「はい、もう帰ります。柊先輩は何してるんですか?」

「俺は帰る前に寄ったとこ。さっきまで友達と遊んでてさ。家まで送ってくよ」


柊は有無を言わせず、自転車を押して菜都奈の歩調に合わせる。前籠には弁当とお茶がレジ袋から覗いている。

菜都奈はラムネを一粒口に放って、発券してきたチケットを仰ぎ見る。

「どこか行くんだ?」

「来月、原画展に行くんです」

「へえ、いいね。誰と?」

「クラスの友達と。東京なんで、何食べたいか今から考えてるんですよ。ふわふわのパンケーキは絶対に食べたいし、あとアイスとか生クリームとか乗ってるお洒落なプリンも食べてみたいなって」


「いいねー。今度俺とも食べに行こうよ」

「じゃあもっと涼しくなったら尽も誘って遊びに行きましょうよ」

菜都奈が候補地をいくつか挙げると、柊は可笑しそうにクスクスと笑った。

菜都奈の家の前まで着くと、柊は自転車を止めて、前籠のレジ袋の中からポッキーを箱ごと菜都奈に渡してきた。


「これ、付き合ってくれたお礼」

「! 送ってもらったのにお菓子までもらえないですよ」

「うーん、じゃあ一袋もらって。シェアしようか」

二袋しかないポッキーの一袋は全体の半分だ。けれど柊は菜都奈に袋を握らせる。

「ありがとうございます」


「こちらこそ。じゃあね」

柊はヒラヒラと手を振って自転車に乗る。その後ろ姿を見送りながら、菜都奈はポッキーを食べた。モテ慣れている人は行動までスマートだ。

チョコレートはラムネとは比べ物にならないほど甘い。

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