第3話
前に書いたことをまた蒸し返すけれど、ぼくは育ちがいい読書家というわけではないので十代のうちに通った読書で印象的なものと言えば村上春樹に尽きるのだった。『ノルウェイの森』を通して十回くらい読み耽って、まだ幼い頭で「こんなにすごい小説が世の中に存在していたのか」と唸ったものだ。そしてそこからいろんな作家の本に手を広げていった。同時代に活躍してきた、もしくは同世代の書き手である作家を色々読んだことを思い出す。例えば村上龍やよしもとばなななど……そうして読み進めていると時間を忘れてしまうこともあった。
でも、『ノルウェイの森』の何がぼくをそんなに惹きつけたのかと言うと説明が難しい。原因としては、まずは村上春樹の文章は実に読みやすいことが挙げられると思う。それまで教科書で読んでいた作家の文章とは違って、同時代/コンテンポラリーな要素が取り入れられていてキャッチーだったというのもあるし、あとは性と死の問題を大胆に取り入れられていてシリアスでこちらの心をつかむに充分だったというのもある。ぼくは当時、そうしたシリアスに性や死を扱う作品に飢えていたのではないかと思う。それで『ノルウェイの森』に惹かれていったわけだ。
そして、ぼくはそんな村上春樹の作品に惹かれたことで東京での学生生活に少し憧れを感じたことをもまた否めない事実として認めたいと思う。村上春樹は出身校は早稲田大学だということで、その意味ではぼくが後に早稲田に通うようになる理由のひとつが生まれていたということになるのかもしれない。実際に早稲田に通い始めてからは『ノルウェイの森』とはまた違う青春小説であるポール・オースター『ムーン・パレス』のような学生生活を過ごすことになったのだけれど、これはまた別の機会に書くかもしれない。
ぼくという人間は、どうやら視野が狭いところがあるらしい。村上春樹の作品が気に入ってしまったら、他の作家のことなんてろくすっぽ考えず春樹の作品ばかり読み続けてしまう。そして、気がつくとカルト的とも言える作品まで読み進めてしまう。これは自閉症スペクトラム障害も絡んでくる話なのかもしれない。だからまんべんなく、あらゆる作家をバランスよく読むということがついにできないのだった。本ばかりではない。音楽にしても、映画にしてもぼくの好みはものすごく偏っている。それは隠しようのないことなので「情報開示」に務めたいと思う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます