第4話 息子の甲斐性

「まぁ、当然このことを息子は彼女に聞いてみるの」


「自殺行為」


水香みずかはなかなかに辛辣しんらつだ。


「まぁ、そうよね。でも誰に聞いてもトラックとの交通事故しか起こらない気が私もするけどね」


 私もどこにどう転がっても事故しか起きないと思う。誰と話すのが一番軽くすみそうかでみたら、別れたら終わるという意味で彼女となるだろう。


「父親に話してたらそれこそバトルロワイヤルになっちゃいそう」


「あははは。そうなりそうねぇ」


 私は乾いた笑い声しかでてこなかった。


「で。そのカッコイイ息子さんは結局どうしたの?」


 水香が乗り気で自分から展開を聞いてきた。これはファンになってくれそうな良い状況だと私は思った。


「息子は彼女と何もなかったという父親も信じたい。既成事実があったというけれど、彼女も信じたい。どっちを信じたらいいのか分からないって感じになってたのよ」


 水香もうんうん、どっちの気持ちもわかるよねと同意する。その同意を受け私は息子と彼女の話し合いの様子を続ける。


「まず、息子は彼女に『自分の父親のことは知ってる?』って問いかけるの」


「それでそれで?」


「彼女は『知らないわよ』って答えるの。でもこの質問で息子が知りたかったのって、実は父親の息子が自分だと知ってて罠にハメたのか? それとも知らないで父親が罠にハマってしまっただけなのか? まずはそこを知りたかったの」


「今の一つの質問にそんな意味があったの!?」


驚愕きょうがくしてさらに先をうながす水香。


「息子は『じゃぁ、男の人を部屋に入れてお酒を飲んだことはある?』」


ってまた聞いたの。


「彼女は『あなたといつも家族の愚痴を言ってる上司くらいかな。私は交友関係そんなに広い訳じゃないから』って彼女は正直に答えた」


 私としては、


「ここは凄い重要よ。彼女にしてみれば彼氏に何か疑われていると、分かってしまう質問だと思うの。でも、それでも彼女は正直に答えた」


 だからこそ重要だと思うのと話をする。


「その言葉を信じられるかどうかで息子の甲斐性かいしょうが試されますね」


と水香が割と的確なところをついてくる。


 私もついつい嬉しくなって続きを話す。


「息子は次に『君のいやなことってどんなこと?』って聞いたの」


「うわ――、この流れで割と思い切ったこと聞いたね~」


と水香はびっくりしている。普通は適当に聞き流してしまう言葉だろうけど、父親が母親とめている現状で、さらに彼女に疑いをかけた時点でしようものなら、かなり大きな問題になりかねない。


「そう。これこそが息子が彼女を信じたいと思う気持ちと、彼女が信じられなくなるかもしれないと迷いながらも、でも絶対に聞かないといけないと思ったこと」


「物語の核心ですね」


と水香は茶化す。私はそうなのよと続ける。


「でも疑問なんだけど。なんで父親はその日、そんなに酔っぱらっちゃったの? 今までは間違いはなかったんでしょ?」


 水香の質問にニヤリとしてみせた私は


「いいところに気が付きましたね、水香さん。父親がそもそもお酒を飲みすぎていなければ今回の問題は起こらなかった」


「飲んでつぶれたことも今までなかったってことでしょ?」


 我が意を得たりと私はうなずく。


「今まで間違いを犯さないようにと、どんな時でも父親はちゃんと節度を守ってお酒を飲んでいたのよ。モテ男の経験はちゃんとここで生きていた」


「モテ男は既に死んだように言うのね」


と水香はころころと笑いだす。


「表向きはね。では今回の大失敗はなぜ起きたか。答えは簡単。息子の彼女に父親は睡眠薬をお酒に混ぜて飲まされたからだったの」


「悪い男の逆パターン!?」


「そう。悪い男が女性を手に入れる手段として飲ませる睡眠薬を、実は息子の彼女が父親のお酒に入れて既成事実もないのにあると言い張ってたの」


「なるほど」


そういうことだったのねと納得する水香。

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