第3話 お馬鹿な父親

 私は気を取り直して話を進める。


「まったく、水香はしょうがないわね。じゃぁ、話を戻してと、イケメンの父親は必死になって奥さんに謝ったの。そんなつもりはなかった。すれ違いが多いと思ったら奥さんに相談したらよかった。既成事実きせいじじつの記憶もないと」


「イケメンの父親、ちゃんと謝れるのは思ったより偉いね。最近は逃げだす男が多すぎだからね」


「状況にもよるけどね。父親は謝ったしそもそも不倫の記憶もない。でもそこは本人たちにしか分からない。でも既成事実はあると相手の女性は主張する。ここは奥さんの甲斐性かいしょうのでる場面よね」


「えへへ」


水香みずか忠弘ただひろ君への甲斐性じゃない。この漫画の奥さんの話だからそこでデレるな!」


「そうは言うけどさっきの発言が思い出されてついニヤニヤしちゃう」


ちょっと水香の能天気さにあきれも含めて


「ニヤニヤする場面じゃありません」


と私は突っ込みを入れる。


「私への愛はどこにいってしまったの?」


水香は私のあきれを茶化ちゃかしてごまかす。私は話を進めることにした。


「奥さんは1日待って。考えさせてといって話を保留にしたの。それはそうよね。でも1日待ってって時間少なすぎるくらいよね」


「私も悩んじゃうなぁ。本人たちにしか分からないってとこがねぇ」


「そうよね。相手を信じるしかない。結局は今まで奥さんがイケメンの父親を信じられるくらい愛されてきたと思ったか? 愛は長い時間を経て終わる時もある。そこから先は相手をどれだけ信じられるか? そこが大問題なのよね」


「えへへ。私と加奈子みたいだね」


「はぁぁ」


「なんでため息と共に電柱に片手でもたれかかるの? ねぇ。なんでなんで?」


「話の腰を折られたからよ。まぁいいわ。イケメンの父親は待った。奥さんは考えた」


「話はどうなったの?」


「そうね。奥さんは父親の自分への愛、そして息子への愛、これからの生活とその他諸々もろもろを今回の1度の過ちと謝罪を自分からしてきた誠実さとで天秤てんびんにかけた」


「で?」


「奥さんは許した」


 にっこり笑った水香は


「そこらへんはやっぱりお約束よね。でもよかったね。うまく家庭が崩壊しないで済んで」


「そうね、よかったよかったとハッピーエンドよね。このまま終わってればね」


 はっと息をのむ水香。


「まさか、そこで終わってないの!? この漫画!」


「終わらないのよ、この漫画。だから私が一推しイチオシしてるの。そこででてくるのがイケメンの息子よ」


「何をどうするっていうのよ。この状況から」


水香は不安そうな顔をする。


「息子はもちろんイケメンよ。スラっとした高身長、しなやかな筋肉、鍛え上げた体は日焼けした小麦色で健康そのもの。バッチリよ」


「サムズアップしなくても伝わるわよ」


 ため息で返事をする水香。


「その父親の愚痴を聞いていた女性こそが息子の彼女だったのよ」


「な、なんだって――!」


とお決まりの声を上げる水香。けれど驚きはホントにそれ以上だ。その反応を見てふふふんと私は不敵な笑みを浮かべる。


「バレた原因はテレビで話していた父親と女性との会話。息子の彼女の上司への不満と愚痴の異常なまでの一致」


「お馬鹿な父親……」


とつぶやいたのは1人だったか2人だったか、それはもはや誰にも分からない。


「それ、ホントにどうなっちゃうの?」


「ね? 気になるでしょ? 私がお勧めするのも分かるでしょ?」


とニヤニヤしている性格の悪い私。


「気になりすぎる。家庭崩壊で済むの? その話。父親と息子の仁義なきバトルに発展しちゃうんじゃないの?」


「結構えぐい発想してるわね。水香、これは漫画のお話よ? 仮想の物語でそんな展開、誰も望んでないわよ。」


「なによ。その現実なら逆にありえるみたいな怖い話し方」


「ふふふん。ないでしょ。そんな話。ある訳ないって……ないよね?」


 私は不安になって水香に問いかける。


「私に聞かれても知らないよ!」


「それはそうよね。私も知らないわ。あははは」


 しばらくの間、私と水香の乾いた笑い声がひびき渡る。

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