第2話 彼女の策略、夫婦喧嘩と秋の空。

「運命の転換期って?」


「ある時は一緒に生きるか死ぬか。奥さんと別れるか別れないか。その女性と再婚するかしないか?」


「なるほど」


 水香はこの話にのめり込んできている。


「じゃぁ、その女性は結局どうしたの?」


 私はこうげる。


既成事実きせいじじつを作った」


「え~!? 大変じゃん! 一夜のあやまちにしたって奥さんとめにめて大喧嘩じゃん‼」


「その女性は虎視眈々こしたんたんと父親のすきを狙っていたの。そして今が絶好のチャンスと見たわけね」


「その女性の計画通りじゃんどうするの?」


「父親は今までは愚痴ぐちるだけだったのよ」


「まったくの隙なし?」


「そう隙なんてみせなかったの。奥さんとすれ違いが多くても、それでも奥さんを信じていたの。信じるっていうのがどれだけ大事か分かる話よね」


「なによ。加奈子かなこ自身の紀仁のりひと君への考え方?」


とジト目の水香みずか


「な、なんでそういうことになるのよ」


「加奈子の頭じゃでてこない感想だったので」


「ひどっ」


「でもんでるとこみると当たらずとも遠からずね」


と一人納得している水香。そこ納得しない!


「なに一人でニヤニヤしてるのよ。水香は忠弘ただひろ君と遊んでなさいよ」


「な、ちょっとなんで今その名前がでてくるかな」


お、動揺してる。うろたえた水香を見るのが面白くなった私はちょっと意地悪してみる。


「水香の憧れの人でしょー? 見てればわかる。付き合ってるのバレバレだって」


 動揺してる、動揺してるわ。あの水香が!


「加奈子こそニヤニヤしないでよ。まったくそんなことはございません。ありえない事実ですー」


 ん――。しらばっくれるか。それならばと。


「じゃぁ、この写メに写ってる人は誰と誰でしょう?」


 携帯の写真をじ――っと見つめた水香は


「ち、ちょっと! どこで撮ったのこの写真。これは盗撮とうさつです‼ 断固反対!」


 私はニヤリとしてみせて


「友達からラインで送られてきたんだけど、ラブラブそうに街中を無防備に歩いてたらいずれバレるっていうか、バレてもいいからこんなに堂々と腕組んでたんでしょ?」


と私が


「お熱いことですこと。まったく水香さんみたいな若い人はこれだから……ねぇ、奥様?」


揶揄からかうと


「付き合っててもそれを隠そうとするからさ……いっそ目立った方が良いかなって思ったのよ」


と思わぬ答えが返ってきた。


「なにそれ。そんな男なの? 彼氏の忠弘ただひろ君って。最低じゃん。悪いけどそんな男なら早くって、新しい彼氏を探した方が良いよ」


と私はいきどおる。なんなのそのふざけた男!


「うん。そうは思うんだけど……ね」


「何が『ね』なのよ。そんなの水香を都合のいい女扱いしてるだけじゃない。絶対別れた方がいいよ」


 私は本気で忠告する。


「でもいいところもあるのよ? 忠弘君」


 ちょっと弱気になっている様子の水香だったけど私は水香が心配だからこそ言う。


「みんなに隠すって……もうそれ絶対、別に本命の彼女いるわよ? 水香の心をもてあそぶなんて私は絶対許せない!」


「ちょ。ちょっと待って。なんで加奈子がそんなヒートアップしていくのよ」


「そんなの当たり前でしょ!? 私が水香を親友だと思ってるからよ! 水香がそうでなかったとしても関係ない。私がそう思うのよ!」


「落ち着いてってば。そんな別の彼女がいるなんて噂は聞かないし。身持ちはしっかりしてるのよ」


 そんなたわごとを聞く耳を私は持ってない。


「学生の頃から二股三股の奴なんてロクでもないって相場は決まってるの! 学生でなくても浮気するなんて最低なのに」


 水香も水香だ。そんな男にあこがれていたなんて。


「加奈子がそんなに私のことを考えてくれてるなんて、今まで思ってなかったからそれはちょっと嬉しいかな。えへへ」


「なんで急に水香がデレてるのよ」


「まぁまぁ。いいじゃない。そんなことよりイケメンの父親はどうなったのよ」


 夫婦喧嘩は犬も食わないということわざもあるし、私はまだ水香の彼氏の忠弘君と一度も話をしたことすらない。


 水香も私の一推しイチオシの続きが気になってるみたいだし、私は気を取り直して話を続けるのだった。

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