天秤にかけたのは彼女の真意。ピンチからの大逆転!

冴木さとし@低浮上

第1話 私の流行り

 「私はこの主人公がカッコイイと思うのよ」


と私は拳を握って力説する。


「ミーハーな加奈子が言っちゃうってことは、そんなにカッコイイキャラなの?」


 私は宮島加奈子みやじまかなこ。言われている通りミーハーな女子高生だ。話をしているのは私の親友の佐中水香さなかみずか


「うん! 私の今一番気に入ってるキャラで一推しイチオシの漫画ね」


と私は自慢する。

 

 連載が始まったばかりの新人さんの漫画。そういう新作の漫画で人気がでそうなものをいち早く推すというのが私の今の流行はやりだったりする。そんな中でどっぷり私がハマった漫画だ。


「へ~。珍しい。加奈子がそこまで言うんだ。どんな物語なの?」


「えぇっとね。まず登場人物が父とその息子の話でね。どっちもイケメンなんだ」


「イケメンなのは加奈子には必須ひっすよね」


「そうね。でもこれはみんなの心に訴えかける信じることの大切さを熱く語った漫画なの!」


と私は作者かと見まごうばかりに作品への熱い想いをぶちまける。


「へぇ。加奈子って恋愛ものとかしか読まないタイプだったのに。どういう心境の変化なの?」


「いや、前から読んでるし? これジャンル恋愛だし?」


「またまた~。あっ。実は彼氏さんの影響?」


 水香はころころと笑いながら私の顔をのぞき見る。


「な、なに言ってるのよ。そんなわけないじゃない」


 痛いところをついてくる。


「そういう水香の彼氏とはあれからどうなったのよ」


と私は露骨ろこつに話をそらした。


「いや、私のことはいいから。加奈子のことを今は話をしようよ」


むむ、思ったよりしつこい。それならばと


「あ~~! 露骨に話題そらした~。何かあるんだね? このこの~。今の心境をどうぞ。水香さん!」


と私は冗談っぽく質問を質問で返す。


「う~る~さ~い~。じゃぁ、もういいから加奈子の一推しイチオシの漫画の話をさっさとしなさいよ」


 それは確かにその通り。私は気を取り直し


「そうね。そういえばそういう話だったわね」


相槌あいづちをうつ。


「忘れないでよ。ボケるには我々早すぎる年齢ですからして。」


 変な言い方するなと思った。もしかして


「なんでそこで敬礼してるのよ。気持ち的には分からなくもないけど。それ水香のキャラじゃない。あっ、まさか彼氏さんの影響だったりして~?」


とさっきの意趣返いしゅがえしのつもりで私は水香を揶揄からかう。


「私のキャラと彼氏を勝手に決めないで。それでお話はどうなったのよ。」


「えーとね。イケメンの親子なんだけど、ある時、父親がすんごい車をテレビの商品でもらうの。父親は大喜びでテレビで話してて、それを息子が見てたの。」


 ここが物語の導入部分よと私は説明する。


「ふむふむ。それでそれで?」


「それがね。クリスマスイブの深夜に放送してる番組でね。不幸自慢みたいな話でさ。そこに父親が電話して不幸話しておまけしてもらって、すんごい車をもらっちゃったのよ。」


 イケメンでも不幸な話はあるのよねと思う。


「へぇ。むしろその不幸話に興味が出てきちゃうわね」


 思ったより水香は乗り気で私の話を聞いてくれるので、私は気分よく話を続ける。


「そうよね。その父親は綺麗な奥さんと結婚したことに特に不満はなかったのよ。でも奥さんも子育てとパートの仕事で忙しくて、父親も仕事で忙しくて一緒に話をする機会も減ってさびしかった。そしてすれ違いも多かったのよ」


と私は話しながら、うんうん。やっぱりこんな展開はうまくいかなくなるお話よねと思った。


「それでそれで? 加奈子の彼氏とも同じ感じにすれ違いがあったの?」


と水香は一歩踏み込んできた。


「私と紀仁のりひと君とはそんなすれ違いなんて起きる訳ないんだから」


「えっ!? ほんとに加奈子って彼氏いたの? ほんとに! ほんとに!?」


 軽率だったと後悔したけど遅かった。興味津々と言った感じで水香はぐいぐい話を聞いてくる。


「で、その父親なんだけどいつも愚痴を聞いてもらっている部下の女性がいて」


「また話そらした~。加奈子、分かりやすすぎ。私とっても困っちゃう。紀仁君とどうなったの?」


「黙りなさい。イエローカードです」


と私は警告する。それ以上、突っ込んでくるならもう一枚出して退場してもらう。


「加奈子が冷たい。まるで氷のようだ」


と水香はへそを曲げる。


「私は冷血女れいけつおんなですので仕方ないですね」


「もう、そんなに卑下ひげしなくてもいいじゃない。ちゃんと話を聞くから許して! ね?」


と水香は謝ってきた。


「はいはい。で、いつものように愚痴ぐちをその女性に話していた父親は、お酒を飲みすぎてつぶれてしまうの」


 女性が狙ってたとしたら千載一遇せんざいいちぐうのチャンスになってしまうのよね。コレ。


「愚痴を聞いてた女性からしたら運命の転換期よね」


と私は真顔で話すのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る