相談
14時00分、任務完了した。
「手伝いありがとう。助かったわ」
「じゃぁ嫁」
「見つかるといいわねー」
「さて、お風呂入って戻る準備だ」
腕をつかまれた。
「戻るのか」
「当たり前」
「求人なら出てるだろ?」
「パートでね」
「頑張れば正規になれるって」
そんな建前信じるからいつまでも低収入なのだろう。世の中そんなに都合よくできていない。
「相変わらず、おバカさんのあまったれ」
「……」
「お疲れ様でした」
つかまれた腕は解放された。
☆☆
母さんからついに言われた。
「いつまでひとりでいるの? 綾香」
つい不機嫌な顔になる。
「それ、新藤の爺様にいわれたの?」
「それもあるけど。子供はいなくてもいいから結婚くらいはしてほしいのよ」
「いつかね」
「新藤さんも来て、いてくれているんだから。ホラ、籍だけ入れてみて」
ニッコリする母。
「籍だけって」
入籍が重要な決断だとなぜわからん。法律で相互扶助が義務になるのに?
わざわざ自分より低収入な男と?
男尊女卑の思想が色濃いあの男とはない。
ぜーったいにない。
「また東京でいい人できたら紹介するね」
「……ええ。早くしてね」
母も膝が悪いらしくコンドロイチンやら痛み止めやら飲んでいる。
内臓系にはまだ疾患はないが、ひとり暮らしとなれば淋しいのだろう。
子供と孫がどうたら、お年玉がどうたらと会話に出てくるようでは。
「一応、こちらの求人情報も置いておくわね」
(やはり母もグルか)
「籍だけ……ねぇ」
寝る前に、脳筋男のいいところを探してみた。
体力バカ、運転が丁寧、年上を重んじる。祖父が爺。
喧嘩っぱやい。庭仕事を手伝ってくれる。優しい。役職もち。
「うーん。ないわ」
いいところを考えると悪口のほうが多い。
ガタッ
「!?」
「泊まりに来た」
「いやいやいや」
「お前どこ住み? 東京のどこ?」
「ついにストーカーするつもりか? 訴えるぞ」
母がヒョコっと顔を出して情報を渡す。めちゃくちゃうれしそうだ。
「まぁ、港区ですってよ。もらってくださる?」
「港区女子っすか。是非っ!」
母さんに言われてもなぁ。
あの年収では子供は無理だし、三月は英語なんてできないし。
母さんが持ってきた求人情報を眺める。
今と同じ職種。年収はちと下がるが、ありかな。どうせ母さんの面倒もあるし、転職もいいかな。
人生には打算も必要。我慢と忍耐となけなしのプライドを捨てる勇気も必要だ。
うちにある新聞をペラペラめくる三月に話を持ち掛ける。
「ねぇ、政略結婚しない?」
「……恋愛結婚したかったんだが、鈍感女」
「あそこの求人受かったら付き合ってもいいわよ。ちゃんと私の年収超えることが条件」
「ボーナス含めればギリギリセーフ?」
「余裕でアウトね。共働きで子なしであれば、なんとか生活できるわよ」
「ひ孫コールどうするんだよ?」
「ご要望なら爺にもまだまだ働いてもらわないと。運転免許は持っているんでしょ?」
三月は親の資格を思いだしているようだ。うーんとうなりながら答えてくれた。
「ああ、ゴールドのはずだぜ」
「なら頑張ってもらわないとね。不出来な孫の尻拭いしてもらわないと」
「まぁ、婚約成立だよな」
「成立じゃなく予約ね!!!」
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