第4話
明朝、あいつが押し付けてきたのは薔薇。
「……」
なんとなく言いたいことが見えてきた。
「だから嫁にしてや」
「低収入、ブサメン、そのうえビール腹」
「ぐっ」
三月は腹を押える。メタボ予備軍の自覚はあったようだ。
「どうせ、爺に言われたんだろ? 嫁とってひ孫見せろって。本当に親戚一同迷惑な」
爺の魂胆が透けて見えるからうなずくなんてしたくないし、第一仕事をどうしてくれよう。通える距離でないし、給料いいし、同僚ともうまくいっている。やめる理由がなく、田舎に職は介護士、看護助手くらいなものだろう。
今更、看護師なんて勉強してられないし。
「今の年収、満足してんのよねぇ」
「なぁ、年収いくらなんだ?」
「あんたより上。早く出世したいところよねー」
昨日、フラれた話を長々とされたときに額をちらりと聞いた。私のほうが1.5倍は稼いでいるのはどうしたことだろう?
「……」
「お昼はおにぎりやさんからの注文でいいわね? あそこ高いんだから、労働頑張ってよね」
「おう」
おにぎりやさんとはいつもはおにぎり、帰省シーズンに限りステーキやらハンバーグやらを出してくれる店だ。先代はその名のとおりおにぎり専門で店出していたのだが、世代交代してから趣向を変えたらしい。
帰省してくる人はそこでしかカロリーの高いものは食べられない。
(店名も変えろよ。まぎらわしい)
本日の掃除は二手に分かれて敷地の両端から攻めていく作戦だ。
「そっちよろしく」
「おう」
なんやかんや言いつつも男手はありがたい。午前だけで今日の目標の三分の2来ている。
「弁当はロース&チーズハンバーグ」
「腹減ってたんだよ。有難い」
「午後もよろしく」
「嫁」
「になってくれる子探そうね~」
「……ぉぅ」
声が異様に小さい。諦めたか?いや、諦めて他の地域から性格のいい子を嫁にしてもらわねば困る。地域繁栄のために。
休憩していると食えない爺さんのご登場だ。
「仲良くやっているかね。若人よ」
「まぁ」
「それなりに」
「ふふーん。わしはひ孫が欲しいんじゃ。早く頼むぞ」
「頑張ってね。爺」
「ふぉーーーん。わしには夫婦が見えるのだが」
「幻覚だね。道端の草でも食ったの? ボケると親族が大変よ」
「年寄りを馬鹿にするな!!」
「はいはい。長生きしてね」
「ふん、観念して新藤家に嫁にくるなり、婿にするなりはやくしろ」
意外と家の存続は興味薄いらしい。
「ああ、そうじゃ、三月のことを考えてくれるのなら見せたいものがある」
断りたいところだが、好奇心に負けた。
「なにさ?」
「うちの屋敷に来るんじゃ」
歩き出す爺のスピードは私と同じくらいでびっくりした。
ここは新藤さんちの納屋だ。
「これを使えば早いぞ。貸し出すだけだ。結婚を考えてくれたら、いつでも使っていいぞ」
枝切りばさみ、高枝ばさみ、そしてチェーンソー。
扱いは少々煩雑になるが、素手よりも格段に心強い。
「……なぜ早くいってくれないの?」
「本当は言いたくないのだが、婆さんには綾香に苦労させるなと常々言われていたからのぅ」
たしかに新藤のおばさまには大変気にかけてもらった。誰にでも優しくて大好きな人だった。それでも三月との結婚には簡単にうなずけない。険しい顔をしている私に爺は断言する。
「いずれそうなる」
「なぜに」
「長年の勘じゃ」
(はた迷惑だって……爺)
有難く道具は借りることにした。なぜか2人分あるものだから作業が段違いにはかどる。
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