第2話

私は都会で接客産業についている。

それでも田舎に戻ってくると口も悪くなるらしい。

まるで中学生の口調だが、爺はそんな私が生意気で気に入っているらしい。

年末年始、私の家の近くをとおっては色々世話をしたがる。


「婿はまだか、ひ孫を抱かせろ」と。

(大正や昭和じゃあるまいし、そううまくいくもんか)

美人なら貰い手もあるし、容姿がイマイチでも子供好きなら貰い手もあるだろう。しかしそれ以外の女には厳しく、世の中物好きはそうはない。


「そんな奇特な人ができたら完全に東京に住むさ」


田舎だ、遅れているといいつつも私は

この土地のにおいが好きだ。

草のにおいと土のにおい。


ITが進んだ社会では土も埃も、ましてや枯れ葉舞い散る場所も用はない。

不要なものでも私はまだ切り捨てられずに入りびたる。

難儀なものだ。

「加減してやれよぉ。お前が来た後は情緒のかけらもなくなってんだ」

「帰れる日は決まってんだ。加減したら道が通れなくなるだろが」

カチカチと愛用の鋏を鳴らしながら新入りの草木たちに樹木に近づいた。



ブチ、ブチン、ブッチン。チョキン、バリバリバリ、バリバリボッッキリ。

照り付ける日差しは年々ツラくなってくる。帽子をかぶり、軍手をして豪快な解体作業をしていく。

鋏で切れるくらいの太さの枝はいい。

しかし、太くなると女の力ではどうにもならない。


鋏の刃を食い込ませてへし折る。

刃物で切るというよりは、てこの原理を使いつつ、できるだけ根元から折る。

(ごめんね)

毟るたび、切るたび、折るたび、内心で詫びる。


草木に対して。生命に対して。


人間の社会には必要な作業だが、動植物に取ったら環境の破壊でしかない。

ツタ、薔薇、さくら、もも、柿木、椿、うめ、そして竹。

タンポポ、ヒメジョオン、アカザ、スペリヒユ、ホトケノザ、ドクダミなどなど雑草と呼ばれるものたち。

雑草ごとに展示会でも開いたら都会の人でも楽しめるかもしれない。


(あー、雑草だけど、花はそれなりにキレイだし、観光地にして、きちんと管理整備してくれたら美しいはずなんだよねぇ)

ツタは見目麗しいとは言わないが、他の樹木がこんな小娘の手で間引かれるのは本当に惜しいと思う。


必要な手入れをしたら間違いなく映えるのに。

ここ数年で高齢になった村の住民たちはさらに年老いていた。

爺はともかく他の村人は何かしら薬を飲んでしのいでいる。

(まぁ、みな百歳まで生きることを目標にしているからどんなに腰が立たなくても、どんな形でも生きているんだろうが)


ただ生命の強さと人間の強さのバランスが崩れていく様を見るのが哀しいだけだ。

土や雨のにおいに混ざってし尿のにおいがする。

寝たきりの人も増えたようだ。どこの誰とは特定しないが、この匂いは年々強まる。

今年からもう伝統であった祭りを閉じることが決定したそうだ。



接客業で使う筋肉と肉体労働で使う筋肉はかなり違うらしい。

腕やら腰やら痛めている。湿布を大量に買ってきて正解だ。湿布薬2箱はかなりかさばるものだ。痛みに耐え、湿布を貼る。

次の勤務に支障をきたさぬように、必要だ。

(用意してきて、本当に良かった。……わたしもいつまで田舎に来れることやら)


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