生命と恋の芽生えは遅く見えて実は速い 完

朝香るか

第1話


またはえている。

私は内心眉を顰める。これで何種類目だろうか。

植え付けた主は鳥だろうか風だろうか。

家の周りにはまた一つ、植物が、命が芽生え、繫栄している。

喜ぶべきなんだろうな……


しかし、いかんせん場所が悪い。

コンクリートを突き抜けて咲き乱れる草木。

植えるはずのない場所で芽吹き、

もはや人の手ではむしることのできない木になりつつある。


「植樹したという話は聞いていないな」


伐採するのも手間もかかるし忍びない。

しかしこのままにしておくとあっという間に大木になるだろう。


田舎とはいえ曲がりなりにもご近所あるし、車も通る。

(ある程度の間引きは必要だろうな)

ため息しか出ない。

もっと林業のものが栄えていれば気軽に伐採を願い出るのに。


母の情報では地元の県にはその整備費が不足していて、さらに人でも不足しているとことで各家庭で頑張って管理してほしいとのことだ。


(自分のしたことなら仕方ないけれど、これご先祖様の敷地の区切りであって私たちが引いたものではないし。各自でどうぞって自己責任系はつらいんだよね)


グチグチジメジメしていても仕方ない。

愛用の枝切りばさみをとりだす。

10年来の愛用品だ。

その都度手入れはしてきたつもりだが所詮素人の管理。


何年も樹木の伐採に使えば錆もするし切れ味も落ちる。

(変え時かなぁ。グリップもいい感じに手になじんでいるのに)



「よぅ。いつも大変だなぁ。いい加減こっちに戻ればいいものを」

「私はここが嫌いなの。何年たとうと若者増えやしないし、

さびれていくばかりじゃんか」


話しかけてきたのは小さい町の長老。

男性ながらもう腰も曲がり始めている。

私の記憶では70は過ぎたはずなんだが、外見は60過ぎの少し腰が曲がった老人という印象だ。

杖もついていないし、毎日どこかしら散歩しているらしく健脚だ。

それでも自然に派生した樹木にかかわらせるのは心配なのだ。

「健康そうでなによりだよ。爺。あと20年はぴんぴんしてそうだな」


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