3
「ごめん。ちょっと待った?」
「いいえ。別に」
湊のほうを見た菘はにっこりと笑って言う。
「それで、僕に話ってなに? 松野さん」と菘の隣に少しだけ距離をおいて座って、湊は言った。
「えっと、別になにか特別な話があるってわけじゃないんです」菘は言う。
「ただ、千里の友達として、一度柏葉先輩に会って、話がしてみたいって思っていただけなんです。だって千里。最近ずっと、柏葉先輩の話ししかしないんですよ」
ふふっと笑って菘は言う。
「そうなんだ」ちょっと照れながら湊は言う。
つまりこれはテストのようなものなんだろうと思った。千里の友達である菘が急激に千里とその距離が縮まったところにいる一個上の先輩である柏葉湊という男の人はどんな人なのか? 僕は千里にふさわしい男のなのか? それを見極めに菘はやってきた、ということだろう。
「突然、迷惑でしたか?」菘は言う。
「ううん。そんなことないよ」湊は言う。それは湊の本心だった。迷惑どころか菘の行動に湊は少し感心もしていた。なんだかんだ言って、友達のためにここまで積極的に行動できる人は、あまり多くないだろうと思った。
それっきり菘は黙った。
なんの話をするわけでもなく、ベンチに座ってぼんやりと夕焼けの風景を眺めたり、足をちょっとだけぶらぶらさせたりしているだけだった。
……テストは合格、ということなのだろうか?
第一印象だけで、というのはちょっと腑に落ちないけど、なにも質問をしてこないということはきっとそういうことなんだろう。
「そのお面。かっこいいね」
可愛いね、と言おうかどうか迷ったけど、湊は沈黙に(それとさっき出会ったばかりの可愛い女子高生とずっと一緒にいるという、少しの恥ずかしさに)耐えかねてそう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます