　白羽神社は歴史のある古風な、由緒ある神社だった。

　神社の境内もとても綺麗に掃除がされていて、空気もやけに新鮮だった。ここだけ違う時間が流れているかのような気がした。

　人気があるのも頷ける。

　白羽神社のお守りを手に入れるという目的がなくても、この神社の空気を味わうだけでも（まさに聖域と言った感じだった）この場所に来る価値があると湊は思った。

「私、菘（すずな）って言います。松野菘です」

　白羽神社の休憩所のような木製のベンチに座って、菘はそう湊に自己紹介をした。「僕は柏葉湊です」相手はもう湊のことを知っていたのだけど、真面目な湊はそう自己紹介を返した。

　すると菘はくすっと笑って「はい。もう知ってます」と湊に言った。

　湊は菘にその場所でちょっとだけ待ってもらって、目的である白羽神社のお守りを手に入れるために本殿まで移動をした。そこには赤白の巫女服姿の綺麗な女の人がいて、湊が「あの、すみません」と言ってから、自分の目的を話すと、その巫女さんはもう手慣れた感じで、「あ、はい。白羽神社の恋のお守りですね」とにっこりと笑って湊にそう返事をした。

　その巫女さんの笑顔と声を聞いて、湊はちょっとだけお守りを手に入れるのが、恥ずかしくなって、顔を赤く染めた。

　白羽神社のお守りはすぐに手に入った。（値段は千円。ちょっと高いと思った）

　その白い羽のお守りは、湊は自分が身につけるのではなくて、このあと、どこかのタイミングで（きっとそれは白羽町のお祭りのときになるだろう。花火の時間に手渡せたら、僕にしては上出来だ）白山千里にプレゼントするためのものだった。

　千里はわざとらしく白羽神社の恋のお守りがほしいことを、直接は口には出さないままで湊に催促していた。

　湊は白羽神社のお守りをもらって喜ぶ白山千里の顔を空想しながら、その千里の友達だという松野菘の待っている木製のベンチのところにまで歩いて移動をした。

　ベンチのところに着くと、菘はじっと、世界を赤く染める夕焼けの風景にその目を傾けていた。