KISSは挨拶 完

朝香るか

キスは挨拶

 その宣言をした人ならば、遊びと本気の区別がつく人なのだろう。

 もちろん20歳以上に限っている。

 面倒ごとはごめんだからね。

 だから私は迫ってきた人にこう尋ねる。


「キスは?」

「挨拶……」


 答えてくれた人にだけ私からキスするの。もちろん頬にね。


 時々恋愛観を持ち込む人もいるけれど

 そんな人はすぐに分かってしまうわ。



 だって目が本気だからね。


 若者はまだ恋愛において嘘が付けない。

 分かりやすい。


「付き合わないの?」

「あら、本気にするなんてどれだけおぼっちゃまなのかしら?

 頬にkissなんて外国人の挨拶よ。ハグだって外国の人たちは躊躇しないでしょ」


「まぁ。以前はそうらしいけど」


「最近は感染症の防止のためにしないし、

 こぶしだったり腕をクロスだったりみたいですけど。

 まだあの風習はあるんじゃないかしら」


「そうかもしんないけど。あんた、自分の噂聞いたことないの?」


「興味ないわよ」

 口にkissならいいのにという声をたくさん聞いた。


 わたしが相手にするのは大学生がほとんど。

「あんた、アキトの誘いことわったんだって?」


「まぁ、そうよ。だってあの人挨拶のレベルを超えているんだもの。

 下ごころしか感じなかったわ」

「ふーん。俺はもったいないと思うけどな」



 馬鹿なことを言っている。

 キスだけで人目を引いている私がこれ以上の条件をつけたら

 遊びでさえも来なくなってしまう。


 もちろん今でさえこんなことをしている私は女子連中からにらまれている。

 あり得ない誘いだとかんじていた。


「よう。俺にも最高の時をくれよ」

 わたしの前に現れたのは昔の上司であり婚約者だった人。

 このゲームまがいのことをやる前に別れた。


「今さら何?」


「だから俺にもキスしてほしいなって思ってさ。

 いまさらだろ。それに金に困っているなら俺が一番払ってやるから」


「残念でした。私はお金のためにやっているんじゃないわ」

「じゃあ何のために?」


「あなたには関係ないことよ」

 昔の人から逃げるように離れた。


 実のところは関係はある。

 彼を忘れるために始めたことだ。


 ☆☆☆


 彼から逃げるように離れ、安心できる自宅に来た。

 動揺が止まらない。

 心臓が早くバクバクするし、手の震えが止まらない。


 家に帰ってから自問自答が始まる。


 この行為は、何のためにはじめた?

 

 本当はあの人のことを忘れたくて。


 仕事も変えて、以前より外見を華やかに変えた。


 貴方をわすれたくて。

 

 もし元カレと会うことがあったなら、

「あんたを見返すために」って言おうと思っていた。


 でも実際彼に逢って見てそんな思いは霧散した。


 そう言って優越感に浸れるのは彼が

 私のことを忘れないでいた場合だけなのだ。

 

 この人は私を性欲処理の道具としか見ていない。


 かつての恋人とは空しいもの。


 いまはキスだけで喜んでくれるような学生たち相手のほうが何倍も楽だった。

 もちろん成人した大学生に限った話だ。

 沢山褒めてくれるしね。

 お世辞なのだとしてもとてもうれしい。


「出来ないわ。だって学生たちのほうがあなたといるより純粋で可愛いわ」

「そうかよ。条件付けている女に興味はない。

 俺に従順な女でなくちゃな」


 彼は前に私に言ったことがあったわ。


「俺は流される女は嫌い。

 自分でやりたいことを決めている女にこそ価値がある。

 だから男のために自分の望みを曲げるなよな」


 だから彼の出張が決まった時も私は自分の仕事をえらんだ。


 その言葉があったからこそ遠距離恋愛を選んだのに、

 1か月しないうちに彼から別れを告げられたのだ。

 電話でただ一言。


「お前、いらない」


 それが今の私になった理由。

 今は大学生たちから褒められる毎日。

 もちろんkissだけね。

 これはしばらく変えられそうにない。

 この状態をいつ変えるかって?

 それは新しく好きな相手を見つけたときでしょうね。


 END




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KISSは挨拶 完 朝香るか @kouhi-sairin

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