第8話 セクハラ

「はぁ……なんか疲れた……」


 いろいろ大変なことが起きた風呂場から、俺はやっと脱出した。

 みやびが水着で乱入してきたり、胸を揉まれて湯船に頭から突っ込んだり……。さっきからロクな目に遭っていない。


「ごめんって、お兄ちゃん」

「今度やったらセクハラで訴えるからね」

「わかったって、悪かったよぅ……」


 さすがにみやびがしょげてしまったので、責めるのはここまでにしておく。

 俺は、ドアのすぐそばに置いてあったみやびが持ってきた着替えを手にする。


 パジャマではなく普段着だ。上は前でボタンで留めるような服で、下はズボン。てっきりスカートが来るかと思っていたけど……そういえばみやびはあまりスカートを持っていないんだっけな。


「あ、お兄ちゃん、下着をつけるの手伝うよ」

「ありがとう」


 みやびが気を利かせて、ブラをつけるのを進んで手伝ってくれる。さっきの反省でもしているのかな?

 何にせよ、今はみやびが手伝ってくれるからいいけど、こういうことも、なるべく早く一人でできるようにならなくては。今度、自分で着替える練習をしよう。


「じゃ、次にこれを着てね」

「うん」


 みやびが服を手渡してくる。以前みやびが着ていた服だ。みやびは身長が伸びたから、着ると窮屈に感じるだろうが、少し身長の低い俺からすればピッタリなのだ。


 俺は下から順調にボタンを留めていく。だが……。


「……んん」


 ちょうど上から三番目のボタンが閉まらない。届きそうなのだが、ギリギリのところで届かないのだ。


 くそぉぉおお! 胸がデカいからきつくて閉まらねえ!

 俺は力を込めてギチギチと無理やり布を引っ張ってみる。しかし、ボタンが取れて服が破れてしまいそうだったので、すぐに諦めた。


 苦戦している俺の様子を見て、みやびが聞いてくる。


「どうしたの、お兄ちゃん?」

「ボタンが……閉まらない……」


 その意味を察したみやびが、動きを止める。


「……ソレハドウイウイミ、オニイチャン?」

「だから、胸が大きくて閉まらないんd……」


 みやびのただならぬ雰囲気を察して、俺は途中で言葉を止めた。


 もしかして、コンプレックスだったのか⁉ 地雷を踏んでしまったのか、俺は⁉ でもそれはこの体のせいであって、意識を移されただけの俺は悪くないよね⁉ なんで怒ってんの⁉ というかさっきまで俺の巨乳っぷりをイジってたよね? 言語的にも物理的にも!


 ……まさか、みやびは自分から巨乳をイジるのはいいけど、人から巨乳自慢されるのは許容できないタイプの人なのか⁉ めめ、面倒くせええええ!


 ともかく、一刻も早くみやびを宥めなくては。


「いや、みやびはスレンダーでいいと思うよ! 俺はそれでいいと思う!」


 確かに、みやびが俺の今の体のサイズくらいだった頃はスレンダーだったが、今は少し成長している。それに、みやびが今の俺と比べてスレンダーだったとしても、何も問題はない。成長は人それぞれなのだ。


 だが、俺がそう言ったその瞬間、ブチッとみやびの堪忍袋の緒が切れる音がした、ような気がした。

 よかれと思って言った励ましの言葉は、どうやら逆効果だったらしい。みやびの地雷を丸ごと誘爆させてしまったようだ。


「……そうですかじゃあお兄ちゃんが着やすいように手伝ってあげるね」

「お、おい……みやび……?」


 明らかにさっきとは口調が違う。ゴゴゴゴ、という音が聞こえてきそうなオーラを纏いながら、みやびが後ろからジリジリと迫ってくる。


 俺は直感的に身の危険を感じて、バッと腕で上半身を抱いた。

 ギラギラと目を輝かせ、ピクピクと口角を動かしながら、みやびは言った。


「おっぱい持ってあげるよ」

「ちょ、みやびぃぃいいいい!」


 脱衣所に、俺の叫びがこだました。

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