第1話 予知なんてロクなもんじゃない。

俺の名前は坊農礼二ぼうのう れいじ

普通の高校二年生。

ある日、気づいたら未来予知ができるようになっていた。

中二病とかじゃなくマジで。

どういう能力か、というと


・発動はランダム。連続で見えることもあれば、1週間見えないこともある

・予知の予兆として、目の前が点滅し、暗くなる

・今までは明日の天気や授業の風景、といったものを見た

・見えるのは静止画


そう、たいして使えないのだ。

たまたまじゃんけんでグーを出そうとしたときに発動し、予知で負けていたので、チョキを出して、勝ったということがある。

役に立ったのはその1回きり。

もっと”透明化”とか、”催眠”とか、”時間停止”とか、

使い道のある能力が良かった。


ため息をつきながら家を出る、神様はなんて残酷なんだ。

と、落ち込んでいたら、後ろから声をかけられた。


「おはよ、レイジ。」

振り返ると、幼馴染の遠峰糸とおみね いとがいた。


俺は糸が好きだ。

物心ついたときから一緒で家族同然に思っていたが、最近になってこの感情が恋心だとわかった。

端正な顔立ち、透き通るような声、素直じゃないが優しい性格。

放送部に所属し、ファンも多い。俺と比べれば月とすっぽんのようなものだ。

「今日、何の日か知ってる?」

「知ってるよ。バレンタインだろ。」

今日は2/14。文化祭、体育祭と並ぶ高校のビッグイベントだ。忘れるはずがない。

「あら以外。てっきり覚えてないかと思った。あんたってチョコもらえなそうだし。」

「失礼だな、お前からの義理チョコなら毎年もらってただろ。」

本当は本命が欲しいんだけどな。

すると糸が突然顔を伏せ、小さな声で言った。

「今年は義理じゃないって言ったら、どうする?」

えっ?それって

「……放課後、旧校舎の裏で待ってるから。」

言い終えたらすぐ走り去ってしまった。


え、まじで?これがアオハルってやつですか。


夢見ごこちで教室に入る。

授業中は気が気ではなかった。

糸の態度。これもうアレだよな。告白する気満々じゃねーか。


ふわふわした気持ちのまま休み時間に入ると、ドアの方から元気な声が聞こえた。

「いますか~!レイジせんぱ~い!」

ユメだ、羽入はにゅうユメ。

部活の後輩で、なぜか俺のことを慕ってくれている。

「あっ先輩!今日が何の日か知ってますか!?」

「知ってるよ。バレンタインデーだろ。」

糸としたやりとりを繰り返す。

「その通りです!正解した先輩には、はいどうぞ!」

そう言うと紙袋を差し出してきた。中にはラッピングされた箱が入っている。

とりあえず1個ゲット。まぁ義理だろうけど。

「ありがとう。今度お礼しなくちゃな。」

「いえいえ!私こそ受け取ってくれて嬉しいですよ!」

笑顔で答え、自分のクラスに戻っていった。

いっぱいチョコを持っていたから、クラスの男子にでもあげるのだろう。

……そんなことより、だ。

放課後が待ち遠しいぜ。


放課後、旧校舎裏に向かう。

そこには糸の姿があった。

「あっ……来たんだ……。」

少し顔を赤くしながら呟く姿をみて、ドキッとした。

「それで、用事ってなんなんだ?」

緊張がばれないよう、冷静に言う。

「あのさ、レイジ。私のこと、どう思ってる?」

「そりゃもちろん、幼馴染だよ。家族同然の。」

「本当にそれだけ?」

それだけじゃない。俺は糸のことが大好きだ。

「私はね、幼馴染とかそういうんじゃなくて、1人の女の子として、あなたのことが好き。だからね。」

チョコを差し出してきた。ハート形をしている。

「私と付き合ってください!」

チョコを支える指は震えていて、今にも落ちてしまいそうだった。

俺の答えは決まっている。

「もちろん、付き合お――――――

言いかけたその際、視界がちらついた。

予知だ。クソ、こんな時に。


辺り一面真っ白な世界に包まれ、世界が再構築されるような錯覚に陥る。何度経験しても慣れない。

しばらくして、白い世界の光景が変わる。


そこには、俺と糸の幸せな家庭の姿があった。

エプロン姿で料理をつくる糸、子供とはしゃぐ俺の姿。

みんな笑顔だ。


―――――はっ」

すぐに元の世界に引き戻された。

目の前には顔を伏せた糸がいる。俺は自信をもって答えた。


「もちろん。付き合おう。」


こんな幸せなことがあっていいんだろうか。ずっと好きだった幼馴染と付き合えて、幸せな未来も決まっている。

俺はスキップしながら部活に向かった。

糸との生活が楽しみだ。一緒に服を買いにいったり、映画を見たり、お化け屋敷にいったり、

ちょっとおしゃれなカフェでデートしたり。

しまいにはあんなことやこんなことまで……


どんっ

ぶつかった。

やましいこと考えてて前見てなかった。てへっ

「すみません!―ってユメ?」

ユメに会った。

「あ、先輩。あの……」

なんだか歯切れが悪い。なんだ?

「お返事は、どうでしょうか……」

返事?なんのことだ?ん、まさか。

急いでユメからもらったチョコを確認する。そこにはチョコと一緒にメッセージカードが入っていた。

『先輩、好きです。付き合ってください。放課後にお返事待ってます。』

え、マジで、モテ期到来か。

確かにユメもかわいい。ショートカットが似合う元気な女の子だ。

しかし、俺には糸がいる、断ろう。

「ごめん、実は――――――

目の前が点滅する、嘘だろおい、今日2回目だぞ。

今までこんなことは無い。


また予知が始まった。


目の前には糸の死体。

顔は血まみれで、目は虚ろだった。

その隣はユメの死体。

血だらけで、一目見て死んでいることが理解できた。

どうして2人が死んでいるのか分からない。

ただ1つ分かることは、、ということだった。


―――ぅわあぁ!!」

叫びながら目を覚ます。

体中に汗がびっしょりで気持ち悪い。

「どうしました!?大丈夫ですか!?」

心臓がバクバクいって鳴りやまない。どうして?どうして?どうして?

予知の内容が変わってしまったのか。俺と糸との幸せな未来は?

なにも分からない、いや、1つだけハッキリしていることがある。


「何でもないよ、ユメ。」

俺はこの告白を


「俺も好きだ。付き合おう。」

断わってはいけないということだ。


こうして俺の、二股ラブコメが始まった。

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