第50話 救出(4)
レイス掃討作戦は二日目に入った。
僕たちは朝早くからユミと一緒に、ヘルハウンドに今日の作戦の説明をしに行った。どこに暮らしているのかと思ったら、村の門のすぐ近くに、七つの犬小屋が新設されていた。どうやらロビンは着実に、ユミのポイントを稼いでいるようだ。
「それじゃ、俺たちは洞窟から向こうの世界に出て、正気の魔物を片っ端からこっちの世界に追い込めばいいんだな」
ヘルハウンド達は早朝に呼び出されたことに不満顔だったが、事情を説明すると真剣に話を聞き始め、快く承諾してくれた。
「ボス…あれは本当に怖い男だ。俺たちも鉢合わせしたら真っ先に逃げるが、本当に気をつけろよ。思いもしないことをやってくる」
「父さん達に伝えておくよ。僕らは村にいるから大丈夫」
僕が頭をなでると、ヘルハウンドはまんざらでもなさそうな顔をして、森の奥に消えていった。
ふと一匹残ってるのに気が付いた。よく見ると雑種犬のハチだった。
「ごめん、君は待機ということで」
と伝えると、ハチは不満そうな顔をした。
かわいそうになったので、僕らと一緒に食堂のそばで待機しよう、と持ちかけたところ、とても喜んでついてきた。犬だ。
食堂に向かうと、大人たちは昨日の返り血をきれいに落とした武具を身に着け、食堂の裏に集合していた。
アランと父さんが話をしている。
「じゃ、今日もお邪魔するけど、留守番よろしく頼むよ」
「本当、酷い話だよ。昨日、夕方に君たちが血塗れで戻ってきた時の、他の住民の顔を覚えているかい?ただでさえ排他的な村なんだ。穏便に頼むよ。あと、靴の泥は落としてくれ」
アランは、心底迷惑そうな顔をしていた。
「大目に見てくれよ。『
「初耳だね。うちの村では750日だ」
「迷惑かけてるのはわかってる。すべて終わったらじっくり話そう。みんながいつでも戻って来られるように、自宅で待機していてくれ」
本当に渋々といった態度で、アランは留守番を了承した。
父さんはそれを見て、他の連中に激を飛ばした。
「よーし、それじゃ出発するぞ。今日の相手はおそらくあの男になる。いつでもスライムを取り出せるようにしておけよ」
大人たちは首から下げた水筒を掲げ、準備万端をアピールした。
そして次々に勝手口をくぐり、最後に通った郷太が、内側から勝手口のドアを閉めた。
また、昨日と同じ待機の時間になった。
だが、昨日の戦術が通用したのなら、今日もきっと大した被害は出ないだろう。
「さて、どうする?」
トシキが訊いてきた。トシキの夏休みは僕よりも短い。それを気にしてはいないだろうが、貴重な一日を待ちぼうけで終わらせるのも気が引ける。
「ハチと一緒にグラウンドで遊ぶか」
言うや否や、ハチが大げさにはしゃいで見せた。
「気を使ってくれてありがとな、ハチ」と声をかけると「え?遊んでくれるんでしょ?」といきなり喋ったので驚いた。
そうだ、ハチも喋れるようになったんだった。
「メル先輩もクリスもグラウンドにいるよ。早くいこ」
尻尾を全開で振りながらハチが喋る。お前までメル先輩って呼ぶのか。
そうして食堂の裏から離れようとしたとき、突然、ハチが耳を立てた。
そして、食堂の勝手口に向かって唸り声を上げ始めた。
僕らも不穏な気配を感じ、勝手口を振り返ったとたん、ばん、と扉が内側から爆発したかのような勢いで開き、それと同時に中から何かが飛び出してきた。
そこにはさっき見送ったばかりのアランが、地面に倒れて呻いていた。
「アランさん!?」
足が片方折れているのが一目でわかった。
近づこうとすると、声を出すのも辛そうなアランがこちらに手を伸ばして、近づいてはいけないと必死にアピールした。
「だ…め、だ…逃げる、んだ」
勝手口から誰かが出てくる気配がする。
僕らは叫ぶこともできず、ただ息を呑んだ。
開いた勢いで半分閉じかけていた扉が、再度ゆっくりと開いた。
邪悪な気配。何とも例えがたい、醜悪な空気が匂い立つ。
「なーるほど、あいつらは村からこうやって邪魔しに来てたんだなァ」
やせ細った黒づくめの男が、ドアをくぐって僕達の前に姿を現した。
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