第54話 葬儀

 それから数日後。

 計良家では、黒ずくめの男こと、岸部和夫の葬式を執り行った。


 行方不明だった岸辺の遺体は、北海道の山中で見つかった。

 検死の結果、特に疑いのある傷や病気はなく、自然死と判定された。

 そういうことになった。

 岸辺の親類にも連絡したが、誰も出席する意思を示さなかったので、家族だけの葬儀となった。遺骨は、計良家代々の墓に埋葬することになった。父さんと母さんが話し合って決めた。


 お経が流れる中、ケラ子はずっと眠そうにしていた。

 無理もない。

 昨日の夜、ケラ子は僕の部屋にやってきた。

 祭壇の岸辺の遺体を見たいのだという。

 明日どうせ見るのだと言っても聞かず、二人で祭壇まで行って、棺の中のご尊顔を覗いた。ご遺体はきれいに化粧されていて、何の感情もない表情で眠る岸辺の顔を、ケラ子は何も言わずにただ見ていた。


 家族だけの短い焼香を済ませ、ばあちゃんが通り一遍の弔辞を述べた後、霊きゅう車に乗って火葬場に移動した。

 小一時間ほどで火葬が済み、箸で骨をつまんで骨壺に一通り納めた。繰り込みで初七日法要、精進落としも一日で行った。


「疲れたか」

 その日の夜、僕がケラ子に問いかけると、ケラ子は「うん、少し」とだけ答えた。

 骨壺は祭壇に持ち帰ってあるのだが、もう見向きもしない。

 実の父親についてどう考えるか、いろんな意見はあるのだと思うが、僕がケラ子の立場であっても、たぶんこれ以上のことはできないし、必要もないと思う。


 今日は、ラグナの村の犠牲者の合同葬も行われたはずだが、異世界から参列できるわけもない。他の村の人もきっと同じだ。これからも村は、互いの世界に必要以上に干渉しない。

 

 明日は八月三十一日。僕とケラ子にとっては夏休みの最終日だ。

 けれど、トシキはすでに二学期が始まっているし、チャドの住むタイの夏休みは三月から五月だったらしい。学校に行けていないリアはもちろん、学校そのものがないクリス達にも、まるで関係がない。

 夏休みの最終日は、きっと何事もなく終わるのだろう。

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