第40話 川遊び(2)
ヘルハウンド達を先頭に、僕らは森の中を進んだ。
昨日の雨のせいで多少草が濡れているものの、それなりに歩きやすいけもの道となっていた。
「なあ、あとどれくらいなんだ」
トシキが話しかけると、ヘルハウンドの一匹が振り向いて答えた。
「もう少しだ。水の匂いがするだろう」
どうやったらあの形の口から日本語が発音できるんだろう、と不思議がりながらも、僕らは水の匂いを探そうとした。
すでに、彼らと話ができるということに、僕らは違和感を持たなくなっていた。リアが自然に話をしているのを見ていたかもしれない。ケラ子に小声で「もう、怖くないか」と聞いてみたところ、もう平気と答えたのでほっとした。
今日はもう少し、ヘルハウンド達と深い話をしてみたいとも思っている。リアの飼い犬だったハチとの関係とか、元々どこの世界で暮らしていたのかとか。
少しずつ、水の流れる音が聞こえてきた。
僕達は思わず駆け出しそうになったが、ロビンに手で制された。川でいきなり魔物と出くわすことだってあるかもしれないのだ。だが、直前でイドが抜け駆けし、僕らもつられて後を追ってしまった。
完全に森を抜けると、そこは渓流になっていた。
上流のほうが岩場になっていて、小さな滝になっている。
だがそこから数mも離れれば、そこは砂地になっており、川も浅い。さらに木陰にもなっていて、拠点にするにはちょうどいい。僕らはそこに、気球づくりで余ったビニールシートを広げた。
そこからさらに下流を見ると、また一段滝があるようだった。
どんどん川沿いに探検したくなっている僕らに、ロビンが釘を差した。
「今日遊ぶところは、そこら辺までだぞ。進んでもきりがないからな」
へーい、と一斉に生返事をする。
「川は特に変なものもいないようだから、入ってよし。俺は薪を拾いながら周りを確認してくる」
ユミに、少しの間お願いしますと言い残して、ロビンは剣を片手にさっさと森に入ってしまった。
ポツンと置いていかれたユミに、カグラが何やら耳打ちをする。何やらからかわれているようだ。何を話しているのか気になったが、みんな靴を脱いで川に飛び込んでいったので、慌てて僕も後に続いた。
川の水はとても澄んでいて、そして冷たかった。
僕とトシキは岸に逃げ帰り、リアとケラ子と並んで準備体操を始めた。それをクリス達が不思議そうに見ていた。
「何してるんだ、早く遊ぼうぜ」
「冷たい水に体を慣らしてるんだ。でないと心臓がびっくりするだろ」
「そうなのか」
クリスはわからないながらも、僕らの隣に並んで、ラジオ体操の動きを真似し始めた。チャドやイドも後に続いた。
クリスやイドたちは、水に入る時に服を脱がなかった。
彼らはタオルももっていない。水から上がったら着替えて、たき火で暖を取りつつ乾かす算段だ。だからロビンは真っ先に薪を拾いに行ったのだろう。
僕とトシキは上だけでも脱ぐ気でいたが、結局彼らの作法に従った。
だが竜人族の二人には、そのつもりはなかったようだ。
ラグナもカグラも、勢いよく服を脱いで全裸になり、おもむろに水に飛び込んでいった。
ユミは思わず声を上げそうになり、口を両手で覆った。
僕らはとっさに下を向いた。
どうしよう、見てもいいのかどうか。
だが、ケラ子が僕の袖を引っ張った。
「にーちゃ、見て。二人とも、すっごく奇麗…!」
恐る恐る顔を上げて川のほうを見ると、二人は水中を滑るように泳いでいた。
まるで水の抵抗を受けていないかのようにするすると進んでいく姿は、蛇に近い清らかさがあった。
そして、時折水面に出てくる肌が水に濡れて表面の鱗が反射し、まばゆく光る。
「これが…竜人族…」
横を見ると、クリス達も彼らの美しさに目を奪われていた。生物としての完成度、とでも言えばよいのだろうか。
そのさらに横で、トシキが「大丈夫?見ても合法な奴?」とひとり葛藤していた。
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