番外編 勝手口の使い方

 今日は久々にトシキのばあちゃんちで、トシキと漫画を読んでヒマをつぶしている。

 この生活にもずいぶん慣れたけど、知らないことはたくさんある。村役場も知らないし、ろくに歩いたことのない場所も結構残っている。

 僕はその中でもずっと気になっていたことを、暇そうなトシキに聞いてみた。


「うちらの世界とつながる勝手口のことなんだけどさ」

「うん」

「うちらの世界の自分の家の内側から勝手口を開けると、こっちの家の勝手口の外につながるじゃん」

「うん」

「こっちの建物の、勝手口以外の部分ってどうなってんの?」


「え、ふつうにあるよ?」

 トシキはこともなげに答えた。

「うちはばあちゃんちの勝手口とつながってるけど、他の部分はこうやって普通に住んでるだろ?」

 そういえばそうだ。

「じゃあ、この世界のばあちゃんちの勝手口を内側から出ると、どこに出るんだ?」

「ふつうにこの世界のばあちゃんちの裏手に出るよ。向こうの世界の俺んちも、勝手口開けて中に入っても、ごく普通に家の中につながるし」

 なるほど、わかってきた。異次元的に繋がってるのは「うちらの世界の家の勝手口の内側」と「この世界の家の勝手口の外側」だけなんだ。

 そしてそれがつながるのは、村人登録された人間が扉を開けたときだけ。


 で、本当に聞きたかったこと。

「実は僕、こっちの家について、勝手口以外何も知らなくてさ。家の表にも回ったことなくて」

「?」

「…誰が住んでるんだろう?」


「こええな、オイ」

 トシキが呆れた顔で言った。

「知らん家の勝手口使って、ひょいひょい移動してたのか。鉢合わせしたらどうすんだ」

「いま話聞いてて、僕も急に怖くなった。すっかり自宅だと思い込んでたしな」

「家の人にちゃんと聞いて、挨拶に行っておいたほうがいいんじゃないか」

「そうする」

 あとでケラ子か母さんに訊けば、きっとわかるだろう。


 余談だが、その頃いさかい食堂の裏手では、アランが鼻歌を歌いながらゴキゲンに食堂の勝手口から出てくるところをたまたま父さんが目撃し、間男の疑いをかけられていた。

 まだまだ、この村には僕の知らないことが多い。

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