第22話 動物と仲よくしよう(2)

 その後も、僕らは村中を歩き回りながら、いろんな動物のテイミングに挑戦した。知らない人の農園の豚やら、柴犬やらを次々と飼いならし、可愛がっては置いてくる。

 村を一回りし、戻ってきたところでトシキがこぼした。

「それにしても、村の中にいるのは誰かに飼われてる動物ばかりだな」

 どれも元々買われている動物ばかりなので、少し離れるだけでこちらのことなどあっさり忘れ、帰っていく。まあ、そういうドライな関係もいいのだろう。餌やらなくて済むし。

「まあ、しょうがないだろ。村の中に何でもかんでも動物がいるってのも、ちょっと怖いし。森の中まで行けば、色々な動物がいるかも、しれん、けど…」

 僕は途中で話すのをやめて、イドが指さしている森の中を見た。森の中から、先日の赤い目が光って見えた。


「野犬…」

 ケラ子が僕の後ろで、怯えた顔でシャツの裾を引っ張った。

 こんなにすぐにまた再会するとは思わなかった。前回いなかったラグナを除いて、全員に緊張が走る。

「大人を呼ぼう」

 イドが現実的な意見を言った。野犬と話せるメルも含めて、誰にも異存はなかった。

「あれが、例の野犬?」

 ラグナが指さして尋ねた。

「いまは一匹しかみえないけど、前回はあれがたくさん隠れてて、あっという間に群れになって襲ってきたんだ」

 イドの説明に、ラグナは不思議そうな顔をしている。


「でもあいつ、嬉しそうにしっぽ振ってるぞ」


 えっ、と全員が野犬を見返した。

 確かに、唸り声をあげていた前回と様子が違う。あの顔は野犬というよりも、そうだ。柴犬に似ている。

「あいつ、俺たちと遊びたがっているんじゃないか」

「いやいや、まさか。僕ら、前回群れに囲まれたんだぞ」

「メル、どう思う?あれ」

 当然のように話を振られたメル。

「いやあ、確かにあれは遊びたがってるようにみえるなあ」


「ていうか、あれはこないだ最初にヨウタが抱きついていった奴じゃないの?」

「え、そうなの!?」

 思い返してみたが、あの日の野犬の個体の区別なんかつかないし、もふもふな感触を楽しむ余裕もあったはずがない。

「ヨウタに抱きつかれた感じが、ちょっと気持ちよかったとか…」

 いやいやいや。


「おーい、何やってんだお前ら」

 後ろから声をかけられ、振り向くと父さんが立っていた。食堂の作業着を着ている。

「あ、ヨウタの父ちゃんだ」

「こんにちは」

 みんなが口々に挨拶をした。

 まだ数日しか経っていないが、父さんは子供達にはすっかり打ち解けていた。

 あの日の大乱闘は、子供にはとても面白かったらしい。残念ながら大人の間では少し厄介な人というフラグが立ってしまったらしく、数奇な目で見られているようだが。

「そろそろ昼飯だから、食堂で食う奴は手を洗って…って、ワンコじゃん。野良犬?」


 僕らはぎょっとした。

 父さんは、何を気にする様子もなく、ズカズカと野犬のほうに近づいていく。

「父さん!それ野良犬じゃなくて…」

 慌てて声を上げるが、聞く様子がない。

「なんだ、ビビってるのか?父さん、犬とは相性いいんだよ。よーく父さんのやり方を見てろよ」

 あまりにも無造作に近づいてくるので、野犬は思わず身構えた。


 その瞬間「よっと」というや否や、父さんはおもむろにしゃがんだ。

 そして野犬と目の高さを合わせ、じっと野犬の目を見た。

 野犬はその様子を、不思議そうな顔で見つめている。

 父さんは次に、ゆっくりと自分の手の甲を野犬の鼻先に差し出した。

 すると、野犬は差し出された手の匂いを慎重に嗅ぎ始めた。

 そして父さんは、野犬の緊張がほぐれるのを見逃さず、首筋から頬、そして頭と順に撫でていく。そこからはあっという間で、気づくと野犬は父さんに腹を見せていた。


「よーしよし、いい子だー」


 屈託なくじゃれあう父さんと野犬に、僕たちはあっけにとられていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る