第5話 異世界の人々(2)

 気づくとケラ子が畑に戻ってきていた。

「にーちゃ、アランとなに話してたの?」

「ケラ子はアランと知り合いなのか」

「何度か会ったことあるよ。転んで擦りむいたときも、魔法で治してもらった」

「魔法!やっぱり使えるんだ!どうだった?なんかこう、キラキラしたりとかしたのか!?」

「うーん、キラキラはしてなかったなあ。ウネウネって感じだった」

「ウネウネ」

 テンションがわずかに下がるのを感じた。


「次は、鍛冶屋さん行こ」

 鍛冶屋があるのか。いよいよ旅立ちの村って感じだ。ケラ子についていくと、背の低い髭面の男が、汗まみれで、赤く熱せられた金属をハンマーで叩いているのが見えた。

 何度か声をかけてみるも、けたたましいハンマーの金属音にかき消されてしまい、気づいてもらえそうもなかった。作業が一段落つくまで、見学させてもらうことにした。

「おい、あぶねえぞ」

 不意に声をかけられた。

「火花がそのあたりまで飛ぶからな」

「す、すみません。つい見入っちゃって…」

 不愛想な男なのかと思っていたが、そうでもないらしい。

「気を付けてりゃいい。見ない顔だな。新参者か?」

「はい、ヨウタといいます。親の再婚で、ケラ子の家族になりました」

 ああ、ケラちゃんか、と男は笑った。笑顔の絶えない子だから、人気者だと言われ、ケラ子は少し照れた。

「するってえと、未来さんの息子になるのかい。親父さんはどうした?」

「今はまだ、ここのことを知りません。僕も昨日初めて知ったばかりで」

 父がのけものにされているとは、さすがに言いにくい。

「そうか。俺は荒木郷太だ」

「えっ」

 てっきりドワーフかと思っていた、と正直に言うと、男はまた大声で笑った。

「俺は君らと同じ世界の日本人だよ。北海道に住んでいるし、時間もずれてない。実際、向こうで君らの母さんと会ったこともある」

 そんなこともあるのか。それぞれ異世界から来ているのだから、同じ世界への出入り口は一つだけだと思い込んでいた。

 北海道旅行が安く済みますね、というと、荒木はちょっと考えて、

「それはどうだろうな。村から見たら不正渡航になるかもしれん」といった。

「不正渡航」

「そうだ。この村の一番重要な義務は、互いの世界に移動しないことだからな。単なるどこでもドアとして使うことくらい、目をつぶってほしいもんだが、無理だろうな」

 たしかに、リザードマンがうちの勝手口から現実世界に乗り込んで来たらえらいことだ。少数の侵入でも、能力差が大きいと、どれほどの打撃になるかわからない。

「互いの世界のモノを売買したりするのも禁止だ。この村の中までなら何を持ち込んでも構わないが、ほかの世界に持ち出すのはダメだ」

 それも仕方ないことだろう。検疫みたいなものだと理解した。

「そうするとおじさんは、ここで刃物を作って向こうの世界で売ってるわけじゃないということですか」

「その通り。俺は趣味で刀鍛冶を教わっているだけだよ」

 自分だけの刀か。ちょっとカッコイイかもしれない。使うことはないだろうが。

「本当はうちの息子も一緒にここのドワーフに教えてもらっているのだが、暑いからイヤだとぬかしおってな」

 そうか、コレがドワーフでないとすると、ほかにもっとムキムキでモサモサのドワーフが存在するってことになる。正直、今日はもうお腹いっぱいだ。

「そうだ、息子はヨウタ君と同い年くらいだから、あとで紹介するよ。一緒に遊んでやってくれ」

「あ、はい。その時はよろしくお願いします」

 言っては見たものの、あまりピンとこなかった。向こうの世界では友達がまだいない。中学生に限定すると、何キロ先に存在するのかすらわからない。それが、家の裏にいると言われても。

「おっと、親方だ。また今度な」

 何やらすごいオーラと臭気を漂わせながら、どちらかというとオーガに近いいでたちのドワーフがこちらに歩いてきた。ムキムキでモサモサなのを確認して、ケラ子と一緒にその場を離れた。


「そういえばケラ子は、こっちに友達いるのか?」

「いるよー。リアちゃんって女の子」

ケラ子は答えた後、少し困ったような顔をした。

「でもねー、最近村に来ないんだ。だからね、その子の家にさっき行ってみたんだけど…」

その子の家がもうなかったの、とケラ子は寂しげな声で言った。

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