第129話 勉強会②
「救う? なんのことだ?」
「隠さなくてもいい。彼女の正体はわかってるんだろ?」
しらばっくれてみてもダメだった。そうか、お前やっぱり知ってたのか。
ハカセは笑っている委員長のことを温かみのある眼差しで見つめていた。
「……なんとなくそうなんじゃないかって思ってたけど、お前最初から気づいていたのか」
「当たり前だ。俺がどれだけまゆたんのことを推していると思っている?」
「だよな。なんの違和感もねぇよ」
むしろ納得できる点しかない。クラスで委員長のことをそれとなく気にかけていたのも、委員長が倒れた時に動けなかったのも、委員長の正体を知っているとなれば全て腑に落ちた。
きっとまゆたんのことを俺たちに語っている時から知ってたんだろうな。
「いいのか? 推しに直接触れ合えるのに絡みに行かなくて?」
まあ委員長はアイドルになるときはスイッチ切り替えるタイプだから軽く足蹴にされそうだけど。
「八尋、アイドルはステージ上で輝いて、俺の心を震わせてくれればそれでいいんだ。俺はそれ以上を望まない」
「こんなに至近距離にいるのにか?」
「俺が推しているのはまゆたんであって中村ではない。彼女がまた笑顔でステージに立ってくれれば、俺はそれでいいんだ。学校での俺たちはただのクラスメイトでしかない。それでいいんだ」
「そっか。お前の考え、俺はいいと思うぞ」
本当の私を見ていないとか、これはそんなんじゃない。
委員長は委員長。それは変わらない。だけど、ハカセはアイドルのリアルに干渉したくないって言ってるんだ。アイドルはステージ上での偶像。ハカセもそれを理解して、正体を知っていても適度な距離感を秘密裏に守っているってわけだ。
ほんと、世の中にいるアーティストのファンがみんなハカセみたいな思考を持っていたらもっと優しい世界になるだろうな。まあ、人間は一人一人違うから、分母が多ければ変なのが出現する確率もあがる。いつぞやの実梨のようにな。
それでも――
「お前、ファンの鑑だよ」
「それは、極上の誉め言葉だ」
そう言わずにはいられなかった。
結局佐伯も招集してお茶を運んだ。最初は二人で全部持とうと試みたけど、4つ持ち上げようとした時点で己の無謀さに気づいてやめた。あのまま持ち上げてたら絶対床が涙で濡れてたな。
「うがあ! なぜ人は勉強しないといけないの!?」
気を引き締めて勉強を続けていると、突然篠宮が哲学的なことを吠えた。
実梨が丁寧に教えていたけど、進捗は芳しくないようだ。こいつに至ってはやる気を出しゃできると思うんだけどな。
なんか俺の家に来たのが新鮮なのかチラチラ部屋を見回していて、集中しているとは言えなかった。
「平穏無事に夏休みを迎えるためだよ! ゆなちゃん!」
「ぐうううううう……く、苦しいよみのりん! 作者の気持ちなんて私わからないよ!?」
ぶっちゃけそれは俺もわからん。この文章を書いた時の作者の気持ちとか正直どうでもいいし全然わかんねぇ。
第一もういない作者の気持ちは誰が理解してんだよ。国語の教師はみんな霊媒師なの? もうそっちで生活した方がいいんじゃねぇの?
「ゆなちゃん……期末で赤点取ったらみんなで遊べないよ?」
「まあ結奈がそれでいいならいいんじゃない? プール……行けないかもね?」
「うがああああああ!」
篠宮が頭を抱えてテーブルに突っ伏した。結構鈍い音したけど大丈夫か? あ、もちろん心配してるのはテーブルの方ね。篠宮は全然心配してない。ゴリラアタックでテーブルが破壊されてないかが心配。
「結奈ちゃん。一緒に頑張ろう!」
「み、みさっち……」
美咲もボス直々にイエローカードを出されているから気合が入っている。
「男連中は結構余裕そうね? 藤原と神崎はなんだかんだ勉強できるみたいだしね」
たぶん中間試験の結果を見てるから俺たちの名前が出てきたんだろう。
上位50位までは名前が張り出されるが、俺はそのランキングから落ちたことはない。ちょっとした自慢。でもたしか委員長は俺より上にいたはず。アイドルやりつつ試験の成績もいいのは反則では? 二足の草鞋を体現している姿に尊敬の念を抱く。
実梨もまあ問題ないだろう。勉強は普通にできるって言ってたし。
佐伯は……イケメンだから問題ないな。イケメンってなんだかんだ全体的にハイスペックだからな。クラスの日陰者に恨まれるのはなんでもそこそこできるからってのもあるだろ。
でも勉強は俺の方が上だから。やっとお前に勝てるものを見つけたんだなこれが。そして彼女もいる。勝ったな。器は完敗だ。
「おかしい……おかしいよ!」
篠宮がキッと俺とハカセに鋭い視線を向ける。
「なんでこの中でも特に頭がおかしい二人が勉強できるのさ!」
「悪いな篠宮。神様って不公平なんだわ」
俺は佐伯を見て痛いほどそれを目の当たりにしてるからな。
あと頭がおかしいってなんだよ。ハカセはおかしいけど俺は普通だっていつも言ってんだろ。いい加減学習しろ。そんなんだから中間試験で爆死するんだぞ。
「ハカセはともかく、ざっきーは絶対勉強できないキャラじゃん! おかしいよ!」
「おい待てこら! 誰が勉強できないキャラだ!」
杉浦さんも言ってたけど、俺ってそんな勉強できない風に見えるの? めちゃめちゃ偏見が酷いんだけど!?
「普段ちゃらんぽらんなんだから絶対勉強できないって思うじゃん! ずるいぞ!」
「努力の成果をずるいって言うな! 友達がいなかったから勉強しかすることなかったんだよ! それを否定されたら俺の去年が全部なかったことになるだろうが!」
「え……ああ……ごめん……」
「おま!? 急にマジトーンで同情すんのやめろよ!? 悲しくなるだろ!?」
「やっくん……」
「神崎……」
なんだかみんなが哀れみの目で俺を見る。やめろ。やめてくれ! マジな同情が一番きついんだって!?
お前ぼっちだったのかよ! って笑ってくれよ。そういう流れだからこれ!
なんで俺がこんな大ダメージを負っているんだ? 胸が……苦しい。これが恋? 現実逃避。
「でも赤点回避は絶対しないとね。みんなで遊びに行けなくなっちゃうもんね」
美咲がぎゅっと拳を握る。その握られた手の中に入りたい。
「まあ本当にやべぇのは篠宮ぐらいだから大丈夫だろ」
「なにが大丈夫なの!? 私大丈夫じゃないじゃん!?」
「だったらやる気出せよ。夏休み補修になりそうなのお前くらいだぞ?」
「補修は嫌だああああああ。みんなと遊ぶんだあああああああ」
篠宮はまた頭を抱えた。その暇があるならペンを動かせよ。
中間試験で赤点を取った場合は救済課題をやればなんとかなった。これは篠宮の実体験に基づいて証明された。俺は赤点取ったことないからその辺わかんなかったんだよな。賢くなったぜ。
しかし、期末試験はそうもいかない。赤点を取ったら、その数に応じて夏休みのクソ暑い時期に学校で補修をしなくてはならない。しかもそこそこの日にち。補修に引っかかった奴はその禊が済むまで部活動への参加も禁止らしい。
さすが進学校。勉強については厳しいな。まあ普通にしてりゃ赤点なんてとらねぇけど。
「じゃあここからはみんなで結奈の勉強を見る? 全員で教えればなんとかなるでしょ?」
「委員長……」
「なあハカセ。篠宮が期末で赤点取るか賭けようぜ?」
「赤点の科目の数、でなくていいのか?」
「そうか。そっちの方が確実性ありそうだな」
数学は本命だな。今の感じだと国語も対抗には入ってきそうだな。そうすると2個か3個が妥当なラインか。
「貴様らあああああああああああ!」
「ムカつくなら赤点回避してみろよ。本当にお前だけ遊びに行けなくなるぞ?」
「はああ!? もう頭きた! 絶対赤点回避してぎゃふんと言わせてやるんだからね!」
「やれるもんならやってみろ」
「きいいいいいい。委員長、みのりん、あと佐伯。この酷い男を見返すために力を貸して!」
篠宮は3人の従者を抱えて勉強に身を入れ始めた。
ふう。やっと集中して勉強する気になったか。やりゃできんだから最初から真面目にやれよな。
「じゃあ八尋君と藤原君は私を助けてよ」
「お安い御用で、お嬢様」
「いまの、わざと焚きつけたでしょ?」
美咲がしたり顔で俺を見る。
「どうかな。まあなんでもいいけどやる気を出してくれたならそれでいいよ」
「私も頑張らないとね」
「そうだハカセ。せっかくだから篠宮が何個赤点取るか言い合うか?」
「悪くない」
俺とハカセは怒りに燃えて勉強に本腰を入れた篠宮を見た。俺たちの言葉は聞こえないらしい。
「じゃあ行くぞ、せーの――」
そうして言い合ったのは同じ数だった。
「なんだよ。賭けになんねぇな」
「考えることは一緒だったな」
「みたいだな」
どうやら、夏休みはみんなで遊びに行けそうだ。
そのために頑張れよ篠宮。あんま心配はしてねぇけどさ。
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