第115話 二人で背負えば
「はぁ……しんど……本当にここに委員長いるの……っているし!?」
息を切らしながら篠宮が重い足取りで階段を一番に上ってきた。やっぱりこういう時に真っ先に来るのは篠宮か。さすがは前世がサルかゴリラの女。スピードが速い。このきつい坂道も森の木々のようなアスレチックとして何か感じるものがあるのではなかろうか。だから一番に来たんだろ? 違う?
篠宮は俺と委員長を見つけると、重い足ながら足早にやってきた。
「篠宮頑張るね。でもここにこんな神社があったんだ。知らなかった」
「普通の人は上ろうと思わんな」
「そうだね。八尋君からここの住所が送られてきたときは何かの間違いかと思ったけど、本当だったね」
ちょっとして残りの3人もゆっくりと上ってきた。
「え……なんでみんなここに?」
委員長は驚いて言葉を失っている。
「八尋君が急に委員長を見つけたって言ってここの住所を送ってきたんだよ」
美咲がグループラインの画面を委員長に見せた。
そこには美咲の言う通り、委員長を見つけたメッセージとこの神社住所が残っている。
俺が委員長が水を飲んでいる時に打ったメッセージだ。
「神崎……話が違うんだけど?」
「だから言ったろ? 俺は正直者だって」
「……嘘つき」
「嘘ついてないからこうなってんだよ」
委員長と話をしようと思った。だけど一緒に探していた美咲たちを裏切るのもやっぱり悪いと思った。だから俺は逆にみんなをここに呼び寄せようとした。神社の入口には名前があったし、その名前を検索して住所を打ち込めば最近の素晴らしい技術で誰でもここに来れる。
そしてみんなが来る間に俺は委員長と話す。完璧な作戦だ。
「でも八尋君もこれ以降なにもメッセージくれないし、電話も出ないしで、私たちどうしていいか迷ったんだからね」
「まあ、そこは悪かったよ。何も気にせずに委員長と話したかったんだ」
「もう……八尋君はずるいね。いいところは全部一人で持ってちゃうんだから」
なぜか美咲は口を尖らせた。でも可愛い。
はあ……美咲はどんな美咲でも天使だわ。疲れた体が癒される。
「委員長! 私、心配したんだよ! ほんとに心配したんだからね!」
篠宮が委員長に抱きついた。あまり力強くやるなよ。その人いま弱ってるからな。ゴリラの力は解放するなよ?
「うん。心配かけてごめんね」
落ち着いて声音でそう言って、委員長は篠宮を優しく抱き返した。
そんなこんなで委員長の無事見つけた俺たちは、男が交代でおぶって病院まで委員長を連れて行った。
委員長……意外とおも……なんでもないです。俺の鍛錬不足なだけです。はい。
「まゆちゃん!! 馬鹿!!」
病室に帰るなり、実梨の本気ビンタが委員長に炸裂。だけどその後に委員長の存在を確かめるように、ぎゅっと抱きしめていた。目には涙を溜めながら。
当然というか、委員長は大人からそれはもう怒られていた。本人も反省しているようで二度とやらないと言って大人しくすることを約束した。そして、ちゃんと体が治って動けるようになるまでアイドル活動は休止することも決めた。
ひと段落して、俺たちも病院で解散した。まだ学校に荷物を置いていた俺たち。佐伯や篠宮、それハカセは荷物を取りに行くって言って先に学校へ戻った。
俺はなんだかすぐに戻る気分になれなかったから、ひとまず屋上にやってきた。
生ぬるい風。それだけならいいけどジメっとしてるから肌にまとわりついて気持ち悪い。夏特有の湿気。夕方なってもまだ太陽は元気。これも夏の特徴だな。
「八尋君、考え事してる顔だ」
横から美咲が俺の顔をのぞき込む。彼女も屋上についてきていた。
「バレたか」
「うん。私が普段どれだけ八尋君のこと見てると思ってるの?」
え? なにその可愛い問いかけ。俺どう反応すればいいの!? 四六時中だろ? とか言えばいいの!? キモ。自分で想像して吐き気したわ。自意識過剰もここまで来るとやべぇ。疲れてんな俺。
「そんなに俺のこと見てるんだ?」
「うん。ずっと見てる」
はわわわわわわわわ。顔を赤らめながら控えめに言うの反則! 可愛い以外の語彙どっか行っちゃうから! 俺、今何考えてたっけ? とか思考が吹っ飛ぶからそれはまずいぞ美咲! 可愛いがもう可愛いになっちゃうぞ! ほら、語彙が死んだ。
「何考えてたの?」
「美咲の可愛さについて」
「へ!? ええ!?」
あ、やべ。美咲の可愛さで言葉が誤変換されてしまった。いやでも美咲の可愛さについては常日頃から考えてるから間違いではねぇな。
でも不意に可愛いって言われて焦る美咲も可愛い。ああまた語彙力が。
いけないいけない。ちゃんと話さねぇと。
「委員長と実梨について考えた」
「だと思った。急に変なこと言うから焦ったよ」
「べつに変なことではねぇだろ。美咲の可愛さについては永遠の議題だから」
ああ、まだ思考が若干可愛いに支配されている。
「そ、それはもういいの!!」
照れてブンブン手を振るのもまた……いかんいかん。
「あいつらはさ、お互い想いあってるのにどこかすれ違ってんだよなぁ」
「わかった。それを何とかしようとして悩んでたんでしょ?」
見透かすような表情。美咲には敵わねぇな。
「正解。でも最後の踏ん切りがつかなくてな。たぶん俺は片方に酷いことしちゃうから」
誰かの悩みに踏み入るなら、最後までやりきる覚悟がないといけない。俺が自分自身で定めたルール。
その覚悟はある。だけど、本当の深淵を覗かれた方はいい思いはしないだろう。経験者にはわかる。でも時としてそれが必要だってこともわかってる。俺はあいつの心の奥に踏み入ろうとしている。
人のためを思ってする行動。それも結局は俺自身の意志に他ならない。
俺はそうした方がいいと思う。そうしないとあの二人は微妙にすれ違ったままだ。
そう。それはわかってるんだ。あと少し、踏ん切りがつかないだけ。
「大丈夫だよ」
美咲がそっと俺の手を両手で包み込む。柔らかい、温かい手。
「八尋君が人のためを想って行動するなら、ちゃんと最後には相手もわかってくれる」
「美咲……」
「私は八尋君を信じてる。この世で一番。だから大丈夫」
優しく言い聞かせるように美咲は言う。
「それに、今は私がいるよ。一人で抱えきれないなら私も抱えるよ。二人で背負えば、一人分の重さは半分だよ!」
美咲は草原に咲く花のように眩しい笑顔を向けた。
ほんと……俺の天使はどこまでも天使だな。
迷っていた心がすっと軽くなっていく。言葉通り、美咲が半分持って行ってくれたんだ。もしかしたら半分以上。
そうだよな。俺には美咲がいる。困ったら手を差し伸べて、背中を押してくれる愛おしい存在がいた。だったら俺も。
心は決まった。
「じゃあ美咲にも協力してもらうか。きっと一人じゃできないことだ」
「任せてよ。八尋君となら地獄の底までだってついてくよ!」
こんなにも心が温かい。今にでも美咲を抱きしめたくなる。でも周りに人がいるからできない。人がいてもチキンな俺には難しいかも。なんだよ俺の理性。壊れるならここじゃねぇのかよ。
「はは、そこは天国じゃねぇの?」
天使が導くって言ったら天国しかねぇだろ。
「何からする?」
美咲が揚々と意気込む。
「そうだな……」
やることはひとつだ。
「デート、しようぜ?」
「うん! うん?」
美咲は一回反射で反応してから、冷静に考えて首を傾げた。
「お忍びデートだ。もう日にちも決めてる」
「え? えええええええええ!?」
きっとそこに、答えに繋がるヒントがある。
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