第103話 何か隠してるよ
美咲の甘さに抗いながら集合場所の校門へ向かうと、既にみんな集合していた。まあクラスを出るときに佐伯も篠宮もいなかったからほぼ100%でみんないるわな。
実梨と篠宮は楽しそうに会話していて、佐伯は一歩離れた位置で立っている。
篠宮を見るとどうしても頭をよぎることがある。あぁ……今日こいつ部活サボってんだよなぁって。自分の意志とは言い辛いから本当に気の毒。明日佐伯のこと一発くらい殴っていいと思う。いつも俺にやってるみたいにさ。佐伯が痛みでうずくまる姿とちょっと見てみたいし。篠宮頼んだぞ。イケメンを俺たちのステージまで降ろすんだ。
実梨が俺たちに気づいて手を振ると、辺りからとても同じ学び舎で勉強をする仲間に向けるものではない視線をいくつも感じる。主に帰宅途中の男子から。いやぁ、今日もいいメンタルトレーニングになるなぁ。
「やっくん遅いよ! 時間は有限なんだぜ?」
「そうだよざっきー。普通はLHRが終わったらダッシュでしょ!」
「悪いな。廊下は走るなって先生に怒られてから俺は改心したんだよ」
「真面目か!? あれ? でも真面目はいいことだね……」
「いい反応だな篠宮。俺はこう見えても優等生なんでな。お前とは違って」
「な!? 私だって優等生だよ!」
「ふっ……」
「鼻で笑ったなあああ!」
キャンキャン喚く小動物。お前に何を言われようが、今日は必ず「でもこいつ今日部活サボってんだよなぁ」が付くんだよ。だからたとえイケメンに騙されていようが今日のお前は優等生ではない!
「ここにいると視線を集めすぎるし、みんな揃ったんなら移動しようか」
「だな。行先は歩きながら考えるか」
いいこと言うじゃん佐伯。その言葉には激しく同意するぜ! なにせ殺意がね。もうさっきからビンビンですよ。少しは佐伯にも向いてくれよ。手頃な方に全集中するのやめろって。
「よし、みんな行こう!」
篠宮の掛け声で、俺たちは行動を開始した。
さすがにこの前みたいに電車でちょっと遠出とはならず、今日は近場で遊べそうなところで遊ぶことになった。
この辺で遊べそうなところって言ったら、カラオケとかゲームセンターとかか?
「私、みのりんの歌を聞きたい! だからカラオケに一票!」
篠宮は人差し指を高く掲げる。誰も追随しなかった。
「そんな!? みのりん!?」
「ごめんねゆなちゃん」
仲良しでも相容れない部分はあるようだ。
「みのりん歌うのは好きじゃないの!?」
「好きだけど、今日は気分じゃないかなぁ」
「ええ……じゃあどこ行く? ゲーセン?」
「ゲームセンター! いいね! 私行きたい!」
ゲーセン。その言葉を聞いた途端に実梨の顔が輝いた。
「おお!? 今度は急にみのりんがノリ気になった!?」
「私ゲームセンター行ったことないんだよね。だから行きたい!」
「そりゃまた珍しいこともあるもんで」
よほど友達がいない人じゃない限り、高校2年生になるまでに最低1回くらいは友達と行ってそうな場所。それがゲームセンター。
俺は行ったことなかったけど、昔に行った記憶がないだけだから。黒歴史ノートにも記載はなかったけどきっと行ったことはあるはずだから。
でも、実梨は行ったことなかったのか。
「私はほら、ずっとアイドル活動で忙しかったから。友達と予定を合わせるってすごく難しかったんだよね。一人で行く気にもならないし」
「なるほど」
人気アイドルは自由な時間が少なかったってわけね。自分がやりたいことをやってると言っても、同年代の友達と遊べないのは少し寂しいよな。
だったら――
「じゃあ今日はゲームセンターだ! みんなもいいよね?」
俺が提案をする前に篠宮に先を越された。意見を言う奴はいなかった。
「よし目的地決定! 行こう!」
「おー!」
実梨は楽しそうに笑って篠宮の隣で歩いている。美咲も二人に並んで楽しそうに会話していた。
そんな姿を微笑ましく思いつつ、俺はさっきの実梨について少し考えていた。
カラオケ。その言葉を聞いた瞬間、実梨の表情が僅かに固まっていたような。考えすぎかもしれないけど、その一瞬に違和感を覚えた。でもほんと……ちょっとした違和感程度なんだよなぁ。うまく表現できねぇ。
「中村さんのことを考えているのかな?」
女子3人が前にいることで、必然的に俺の隣には佐伯がいる。っく……眩しい。俺と佐伯。まるで光と闇だ。油断してるとこの眩しいイケメン力に飲み込まれそうになる。
そんな佐伯はまるで俺の心を読んでいるようなことを言ってきた。
「エスパーかよ」
「神崎はそういう奴だってわかってるからさ」
え? そういう奴ってどういう奴? 言葉がふわっとしすぎて俺がわかんねぇよ。
「なんとなく、少し実梨に違和感を覚えたってだけだよ。深い意味はない」
ほんとに気のせいレベルだからな。深く話すような内容でもないだろ。
「なるほどね。じゃあそんな神崎に俺からひとつ。中村さん、何か隠してるよ」
佐伯の言葉には妙に確信めいた自信を感じた。
たぶん、きっと、おそらく、そんな推測の言葉を使わず強く言い切っていたから。
「なんでそんな自信ありげなんだよ?」
「わかるんだよ。自分を取り繕っている人の顔ってやつはさ」
「それまたどうして?」
「俺がそうだから。取り繕っている人はよくわかる。だから中村さんは俺たちに隠し事してるよ。俺には確信がある」
「だから話の流れでさらっと自分の闇をさらけ出すのやめろよ。お前どうした?」
こいつ今日の昼からどうした? なんか会話の中でナチュラルに闇を出してくるんだが。
さっきは光と闇とか表現したけど、もしかして佐伯も闇属性だったの? 眩しいくせに闇属性ってなんだよ。世界の理反転してんのかこいつ?
それでも、佐伯から冗談を言っている雰囲気はない。実梨は何か隠している。俺としてはちょっとした違和感程度の話だったけど、このイケメンにとっては確信らしい。
ただまあ、例え実梨が何か隠してたとしてもだ。目の前にいる実梨が楽しそうにしてるならそれでいい。下手に面白半分で介入するのはよくない。
仲良くしてるけど実梨とはまだ出会って時間も経っていない。彼女について知らないことがあったって何ら不思議ではない。逆にここで完璧に理解してますとかいう方がやばい。魂の糸で繋がっているからわかるみたいなスピリチュアルなこと言いだしそう。
「どうもしてないよ。それとも、これが本当の俺なんだって言ったら引く?」
どこか試すような佐伯の視線。そんな顔でもイケメンなんだから神様って意地悪。
「べつに。ただのイケメンより評価が下がりそうだから俺としては助かる」
むしろどんどん闇を出してけ佐伯。そして早く俺の隣に立つ位置まで下がってこい。
俺がお前の高みまで行くより、お前がおりてくる方がまだ現実的なんだよ。
そして俺はその先を行って天使に見合う男になるぜ。その思考がすでに負けていることからは目を逸らした。
「じゃあ神崎の前では積極的に出していくことにするよ」
「俺よりクラスの前で出してけって。きっと新しい扉が開けるぞ」
「まあ……クラスの連中にはいいかな」
「……そうっすか」
その違いはなんなんだよ佐伯。なんで俺はいいんだよ佐伯。イケメンの考えることは難しい。でもな佐伯、お前は間違いなく闇属性だ。
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