第74話 体育祭と踏み出す一歩②
「こここここ告白⁉︎」
「いったん落ち着け」
「そ、そうだよね!」
篠宮は何回か深呼吸して呼吸を整えてから椅子に座る。
「衝撃的過ぎて取り乱しちゃったよ」
「疑うことはしないんだな?」
「あぁ……まあ彼女がざっきーのこと好きなのはわかってたし。いつかはと思っていたけどまさかもう行くとはって感じ」
篠宮も誰がの部分をぼかして言う。
「相手が誰を好きとかわかるもんなの?」
「女子の勘ってやつだよ」
「お前も女子だったんだな」
「お? それは自殺志願って受け取ればいい?」
「まだ生きてはいたいかなぁ」
笑顔で拳を握るのやめろ。篠宮は意外とパワーあるから普通に痛いんだよ。
女子は誰が誰を好きとか勘で把握することができるのか。この辺が男とは脳みその作りが違いそうなところだな。俺なんてあからさまな行動をされてやっと気づいたレベルなんだが。
思えば委員長もなんとなく相原の気持ちを理解していたような。やっぱり女子すごいな。
「でさ、返事はどうしたの?」
「結構食い気味に来るのな」
「そりゃあ気になるでしょ。人様の恋愛話だよ?」
「そんなに気になるのか?」
「むしろ気にならない人いないと思うけど」
「……言われてみればそうだな」
俺だってもし相原が誰それに告白したとかされたとか聞いたらすげえ気になるしな。今の篠宮をその場合の俺だと仮定すれば納得できる。
俺としては、相原以外の人間の色恋には微塵も興味はないけど、やっぱり気になる人の色恋には興味が出てしまうのが人間の性。
「して、結論は?」
篠宮は身体を前のめりにして迫ってくる。圧が強い圧が。
「返事しようとしたら逃げられた」
「はい?」
「その反応はよくわかる。でもそうとしか言えねぇんだよ」
脱兎の如く去っていった相原の姿を思い出しながら、やはりそうとしか言えねぇよなぁと自分を納得させる。間違いなく告白の返事をしようして逃げたよなあれは。心の準備がとか告白は男からとか言ってたし。
「つまりざっきーは告白されたけど、返事をしようとしたら逃げられたと」
「素晴らしい回答だ。満点をあげよう」
「いや意味わかんないんだけど⁉︎」
「俺もわかんねぇよ。本人に聞いてくれ」
「聞けるかい‼︎」
「同じ女子としてそんなことする心情とかわからないか?」
「どうだろうね。私にはわからないや」
「つまり人に恋したことがないと」
「おやおや綱引きの綱の気持ちになりたいと」
「脅し方が体育祭仕様になってるな。お断りだ」
綱引きの綱の気持ちってなんなんだよ。引っ張られて痛いとかそんな感じ? あとは私のために争わないで‼︎ とか?
体育祭は個人種目の他にいくつか全員参加の団体種目がある。綱引きや騎馬戦がその例だ。1年騎馬戦、2年騎馬戦といった感じで学年毎に決戦がある。
午前中は個人戦がメインであり、午後は団体戦が増えてくる。中でも学年別男女混合リレーとか男子騎馬戦とかが目玉種目だろう。
「そういえば気になってることがあるんだけど」
「どったの?」
「女子ってみんなハチマキの付け方あんな感じなのか?」
「ああ……」
クラスの女子を始め、周りの女子たちのハチマキの巻き方は非常にオシャレである。おでこではなく、カチューシャみたいな感じでリボン結びしてる人とかいるし、走ったら落ちたりしないのかねそれ。
「ハチマキ一つとっても可愛く見せたいのが女子なんだよ」
「そう言う篠宮は普通におでこに巻いてるよな」
同じ女子でも、篠宮は男子と同じくおでこにハチマキを巻く普通のスタイル。
「可愛く見せようとか思わないのか?」
「あんな巻き方してたら早く走れないじゃん。それに、普通に巻いてるのも私はカッコいいと思うし」
「それは言えてるかもな」
おでこにハチマキを巻いている篠宮の姿は、たしかにいつもよりキリッとして見えた。決していつもはぽやっとしていると言いたいわけではない。うん。
「つっても男には想像できない巻き方だからほんと女子ってすごいよな」
どうしたらハチマキをリボンみたいに結ぶ発想に至るのか。
「可愛さへの執念だね」
「俺も見習ってやってみるか!」
「いや普通にキモいからやめた方が良いよ」
「……知ってた」
男はやっぱシンプルイズベストだよな。普通に俺がリボン結びとかしてたら篠宮の言う通り凄まじい絵面が出来上がる。そんな自分の姿を想像しただけでちょっと気分悪くなったわ。
「でも篠宮は普通にハチマキしてるだけでもカッコよく見えるな」
「ありがと! ざっきーもまあ悪くないと思うよ」
「それならカッコいいって言ってくれませんかね?」
悪くないのはわかるけど、それはつまり良くもないってことだよな。良い寄りの普通。c寄りのbみたいな。何の話か。
とにかく赤いハチマキってのが良い感じに篠宮のやる気とリンクして一体感を演出しているのかも。要は似合ってるってこと。
「褒めてるから気にしないで。それより借りもの競争は大丈夫そう?」
「いざとなったらクラスの誰かと共倒れするつもりだから大丈夫」
「それ大丈夫って言えるの?」
「最悪道連れにすると思えば気は楽だよなぁ」
朝の精神統一の際に出た結論。死ぬとしても絶対に一人では死なないと言うこと。
例えどんな頭のおかしいお題が来たとしても、クラスの誰かと一緒に爆死すると考えれば幾分か心に余裕ができるってもんだ。死ぬ時は一緒作戦。クラスラインからハブにされていた復讐とかではない。俺の心は海の如く広いからな。
「……私はやめてよ。友達じゃん?」
苦笑いしながら予め命乞いをする篠宮。だが、そこに例外は存在しない。
「お題がお前にピッタリだったら真っ先に連れて行くから覚悟しろよ」
「そんな殺生な⁉︎」
「友達なら、困っている友達を助けるもんだよな?」
「じゃあ今日だけざっきーと友達じゃないってことで」
「友達じゃないなら気を遣う必要もないし、これで容赦なく巻き込めるな」
「逃げ場ないじゃん⁉︎」
「最初からそう言ってるだろ」
キャンキャン喚く篠宮の相手をしていると、どこかから視線を感じる。殺気⁉︎ とはならないが、刺すような雰囲気に辺りを見れば
、遠くの席の相原が恨めしそうにこっちを見ていた。
なぜそんな目をしてくるのか原因がまったくわからない。
「なあ篠宮、相原がなんだかすごい恨めしい目を俺に向けてるんだが」
指で相原を差しながら小声で言えば、篠宮はそんな相原を見て得心したように頷いた。
「あれは恋する乙女の反応だから気にしなくていいんじゃない?」
「あれがか?」
恋する乙女ってのはどっちかと言えばさっき控えめに手を振ってくれた状態の相原のことを言うのではなかろうか。今の相原はその内殺意に目覚めそうな感じでとてもそうには見えない。
「さっきまでは普通そうだったのに」
「みさっちは可愛い女の子ってことだよ」
「そんなことは知ってる。愚問だろ」
「そういう意味ではないんだよねぇ」
ざっきーもまだまだですなぁ、と篠宮は上から目線でため息を漏らす。
まあ、ああやって感情を剥き出しにする相原も最高に可愛いから記念にいっぱい拝んでおくか。減るもんでもないし。
どうせ考えてわからないことはわからないので、今ある相原の可愛い姿を目に焼き付けておくことにした。
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