第33話 過去の訪れ①
「やっぱ神崎じゃん! 久しぶり!」
俺と目が合い、軽やかに手を振ったやつが一人いたので、そいつが話しかけて来たことを理解した。
「太一の友達?」
「そそ、ちょっと話してくから先戻ってて」
「はいよ〜」
一緒に来てた友達に一言断りを入れてから太一と呼ばれた男は小走りで近づいて来た。その軽やかな足取りからは好意的なものしか感じ取れない。
やっべぇ……全然思い出せないんだけど。あいつ誰だよ。どうしようもうこっち来ちゃうんだけど全然わかんないんだけど!
「ひ、久しぶり! 元気してた?」
声も震え、おそらく今俺は引き攣った笑みを浮かべているに違いない。
そんな違和感バリバリの姿を疑問に思うのは当然なわけで。
「お前、俺のこと忘れてるだろ!中二で俺が転校したからってあんまりじゃないか⁉︎」
「え、ああ、いやぁ…………」
「やっぱり忘れてる!酷いぞ親友!」
「親友になった覚えはないんだよぁ」
「えええええええ⁉︎」
今にも泣き出しそうな顔をされるととても申し訳ない気持ちになる。これ以上誤魔化しきれないので素直に白状することにした。
「わり、誰だっけ?」
「新堂太一、転校までずっと仲良くしてたじゃないか‼︎」
「新堂太一……?」
「え、本当に覚えてないの?」
新堂太一、目の前の男にそう言われて、俺の中で一つ思い当たるフシがあった。
本気で泣きそうになるな俺が悪者みたいだろ。
「悪かったよ新堂。今も泣き虫新堂なのか確かめたくて意地悪しちまったな」
「マジな雰囲気だったから焦ったんだけど! あと泣き虫じゃなくて情に熱い男と言え!」
転校の時の別れ際、抱きついて延々と泣かれて制服を水浸しにされたことがあった。記憶から抜け落ちてたけど、確かそうだったはず。
マジで忘れかけてたけど、ナイスフォローで意地悪してただけと言うことにした。よく咄嗟に出たぞ俺。
「暑苦しい。まだ春だぞ?」
「いいだろ久しぶりに親友に会えたんだから。嬉しい気持ちはちゃんと相手に伝えないとだろ!」
「十分伝わってるからもう少し声抑えて」
「わかったわかった。神崎なんか前と雰囲気変わった? 昔はもっと落ち着いてたような気がしてたんだけど」
「そうか? 久しぶり過ぎて感覚がおかしくなってるんじゃないか?」
「そうかなぁ。まあ、それはそれとして」
新堂は先ほどから隣の相原をチラチラと見ては俺に視線を戻す。そいつは誰だと聞きたいけど迂闊に聞いていいものか考えているように見える。空気を読まずにガツガツ踏み込んで来る男かと思ったけど、どうやら相応に場の空気が読めるらしい。
何かを言おうとして、でも喉元で止まって言えないように、新堂はゴクリと空気を飲み込む。
「えっと、神崎君の友達……なんだよね?」
挙動が怪しくなった新堂へ、相原が確認するように問う。可哀想に新堂。相原からはまだ俺の友達だと認識されていいないらしい。でもそれきっと俺が本当に友達なのかわからないような対応を取ったからだよな。もういっそ相原に乗っかって友達じゃなかったことにしようかな。
「は、はい! と、友達させていただいているはずの新堂でしゅ!」
新堂は顔を紅潮させて若干後ろ向きなコメントを噛みながら返していた。なんでこいつ挨拶程度でこんなテンパってるの?
「初めまして、私は相原美咲です。よろしくね」
相原はいつものエンジェルスマイルを新堂にお見舞いして丁寧に頭を下げた。
「これが女神か……」
「天使だろ?」
感嘆の声を漏らした新堂へ冷静に指摘しておく。ここ、大事だから。
「は?神の方が上だろ?」
「言われてみればたしかに」
俺もこれからは女神相原として信奉した方がいいだろうか。ただ、神の使いからワンランクアップしてしまうとそれはもう俺が関わって良いラインを越えてしまうのではなかろうか。うん、やっぱり天使だな。
お前は女神と崇め奉り遠くから眺めているといい。俺は近くで威光を賜り直接触れ合いの時間を設けていただくもんね。ふへへ。
「私は人なんだけどね」
と相原に言われてから己の失態に気づく。つい女神とか言う輩がいたから言ってしまったが、本来これは俺が心の中に留めていた敬称であった。
「そりゃそうだわな。新堂も変なこと言うのやめろよな」
「は?お前も言ってたろ⁉︎」
「人を神格化して崇めようなどおこがましいにも程があるぞ。なあ相原?」
「え……そこまで言わなくても大丈夫だよ?」
相原は引き攣った笑みで俺の言葉の一部を否定した。
下々の民の失態にも寛大なお心で許してくださる。これを天使と言わずになんと言うんだ? 女神か。
さっきから相原を見る新堂の目が嫌らしい。鼻の下を伸ばして気持ちの悪い笑みを浮かべている。
そう言えば俺も篠宮に同じことを言われたような……まさか今の新堂みたいな顔してたの俺⁉︎
まじただの変態じゃねぇか。久しぶりの友人の姿を見て時間差攻撃を喰らうとか誰が予想できたんだよ。それでも今日の相原みたらこうなっちゃうのも仕方ないんだって。自然の摂理なんだって。でもあの顔はやべぇな。これからは表に出過ぎないように反省しよ。
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