第31話 モテる者の悩み
「ざっきーキモい顔してる。そんなんじゃモテないよ」
わかってますよ篠宮さん。でも後半のセリフは余計じゃない?
「俺のモテ期はこれからだからな。今は耐え忍ぶ時なんだよ」
人生でモテ期は3回来るらしいけど、俺まだ1回も来てねぇからな? まだまだこれからの男なんだよ俺は。その辺理解しておいてね。
「どうせ赤ちゃんの時に1回使ってるよ!」
「なるほど、じゃあ後2回だな」
まあ1回くらいは妥協してやろう。
「あと1回だと思うよ」
横から相原が口を挟む。
「なんかまた1回減らされたんですけど⁉︎」
俺の知らない間にモテ期が2回消費されたんですがそれは。
相原も篠宮も俺にモテ期が来ることを許してくれないらしい。
「え? 俺ってモテちゃいけない系男子だった⁉︎」
自分で言ったけどモテちゃいけない系男子ってなんだろう。前世で業を積み過ぎたらそうなんのかな。
「ここまで減ったらもう終わったってことでいいんじゃない?」
「お前らが勝手に終わらせようとしてんだろ。俺の中でモテ期の自覚ゼロだからな」
「え? 自覚なかったんだ? それは可哀想に」
「お気軽に人のモテ期削るなや。0と1は雲泥の差だからな。たとえ理不尽に削られても最後の1回は譲らねぇぞ?」
「他の2回は譲ってくれるんだね」
苦笑いしながら冷静に突っ込みを入れる相原。
だが考えようによっては1回の期間が長いとも考えられるだろ。これからの1回が死ぬまでモテ期とかあり得なくもないし。
「まあ不特定多数にモテたいわけでもないしな。運命の相手が現れればそれでいいの俺は。だからモテ期は1回あればオッケー」
異性から好意を寄せられたことがないからわからないけど、それはきっと嬉しいことなんだと思う。早く来いよモテ期。
しかし、モテ期が来ないのならこちらから攻める手もある。だが俺はしない。好意にしろなんにしろ、自分の意志の押し付けは時として人を困らせてしまうから。
「運命の相手って、ざっきーはロマンチストだね〜」
「夢を見るのは自由だからな。これから来るモテの時代に向けて思いを馳せるわけよ。まあ年中モテてる佐伯とか相原にはわからなそうだけどな」
「そう言うけどな神崎、モテ過ぎてもいい事なんて少ないぞ?」
「私もそう思うな」
相原も佐伯も困ったような笑みを浮かべる。モテることは否定しないのね。
自分から吹っかけたけど、やっぱり相原はモテモテなのね。佐伯はまあどうでもいいや。知ってるから。
「二人ともモテることは否定しないんだね」
俺が思っていることを篠宮が代弁してくれた。
「俺が否定したら逆に嫌味に聞こえないか?」
……何回聞いてもムカつくもんはムカつくな。
「待て神崎そんな嫌そうな顔で見ないでくれ。本当に良いことないんだからな!」
「じゃあモテて一番困ったエピソードは?」
「バレンタインのチョコに大量の髪の毛が入ってたことがある」
「えぇ……マジかよ」
弄ってやろうとか思ったのにガチめに可哀想なエピソードだったので普通に素で同情してしまった。
しかし訊いたのは俺だけどそんな爆弾を堂々と言うんじゃねぇ。マジで反応に困るんだわ。
でも俺はそこであることに気づいた。
「いやでも普通にバレンタインのチョコって貰えるもんなのか。あれ都市伝説じゃなかったんだ」
バレンタイン。だいたい3ヶ月程度前にあったらしいイベント。噂によると女子が男子にチョコを渡すらしいが、俺にはそんなイベントの雰囲気すらなかった。
でも、実在してたんだ。前のクラスには貰えるほどのイケメンが居なかったのか。はたまた影に隠れて行われていたか。
「神崎君……」
「ざっきー……」
相原と篠宮が哀しげな眼差しを向けてくる。それ向ける相手間違ってますよ。悲しいエピソードを話したイケメンに向けるやつだからそれ。
「俺はそれ以来手作りのチョコが食べられなくなった」
「でしょうね」
そりゃそんなホラー映画もビックリするリアルホラーに出会ったらそうなるわ。
もう髪が入ってたら他に何が入ってても違和感ないよな。考えるのやめよ。
「相原はーー」
なにか困ったことあるの? って聞こうとした時、俺たちのレーンでボーリングピンが弾け飛ぶ音が響いた。
画面ではちゃっちい絵がピンを全て爆殺しストライクの表示。
それを巻き起こした男、ハカセが満足気にレーンから戻ってくる。何してんのお前? ボーリングか。
「お前たち、いつまで話しているんだ?」
眼鏡をクイっと持ち上げて続ける。
「ここはボーリングをするところだろ? 待ちくたびれたから勝手に始めてしまった」
テキトーな名前が書かれたスコアの一番上にはXの文字が刻まれている。ストライクですって。
この男は超が付くほどのマイペース男だな。
「因みに、俺はモテない」
堂々と言うのもなんか虚しいような。というか話は聞いてたんだ。前にも言ったけど口を開かなければモテる気がするんだけどなぁ。
「そんなの言われなくてもわかってるから大丈夫だよ」
「篠宮も言わずともわかるから問題ない」
「はいいいいい? 私こう見えてもモテちゃいますけど〜?」
「寝言は寝て言え」
こいつらもっと仲良くできねぇのかな。
「ふ、二人とも仲良くしようね」
視線で喧嘩をしている二人の間に割って入るように相原が静止するも、奴らは相原の言葉に耳を貸さずにばちばちやりあってた。天使様の御言葉を無下にするとか良い度胸じゃねぇか。
「似たもの同士なのかもな」
佐伯の呆れた声にただ同意するのみだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます