第29話 天使の幼馴染
「呼び出し番号ーーのお客様」
さっきからちょいちょい聴こえてくる店内放送。俺たちの他にも待ち人が多いようで、中々自分たちの番号が呼ばれるまで時間がかかっている。暇つぶしに回るのも飽きてきた頃、放送を聞いた篠宮が反応した。
「お、私たちの番号が呼ばれた。みんな行こっか!」
「結構待ったなぁ」
さすがは休日と言ったところか。
「ゴールデンウィーク最終日なのも影響してるかもね!」
「そんなもんか? 休みの最終日とか逆に家でゆっくりしたい人が多いと俺は思うんだけどな」
特に長い休みの最後とか、次の日に備えて家でのんびりしそうな気がするだけどな。
最後の休みを堪能しようと思わないのか?
「ざっきーは友達少ないからそんな発想になるんだよ。友達がいる人は最後の日こそ遊びたいものなんだって」
「友達少ないって決めつけるなよ」
「じゃあ多いの?」
「4人もいる」
「4人⁉︎ ここにいる人しかいないじゃん⁉︎」
「いや、篠宮は違うからあと1人別にいる」
「ちょ、どういうことそれ⁉︎」
プンスカしてる篠宮を見て相原が笑う。
「まあそれは置いといて」
置いとくなって声が聞こえたけど聞こえないことにした。争いは同レベルでしか起こらない。だから俺と篠宮の間で争いにはならない。立っているステージが違うからな。
「俺の考えは一般的ではなかったわけだな。現にこんなに人がいるわけだし」
こんなに多くの人がいたら、篠宮が言うこともまた正しいことだとわかる。
世界はアウトドアに溢れていたんだな。インドアからでは見えない世界の一端を俺は今目の当たりにしている。これが光の世界か。そりゃ日陰の世界に居たらこんなんわかるわけないわな。
「でも私はどちらかと言えば神崎君の考え寄りかも。特に予定がなければ、休みの最後は一日中家でゴロゴロしてることが多いし」
家で一日中ゴロゴロしている相原の姿とか想像できないんだが。ベッドに横になりずっとスマホを弄ったりテレビを見ていたり、うーんやっぱり想像できん!
俺の中で堕落した相原の絵を描けない。外を眺めながら紅茶キメて洋菓子を優雅に食べる相原の姿が浮かぶばかり。堕落した天使を一度この目で見なければやはり想像すらできない、そんな領域に彼女はいる。俺が彼女を神聖視し過ぎているだけか。
「みさっちのそんな姿想像できないんだけど」
「相原は昔から家ではそうだったな。特に小学生の頃はーー」
「ストォップ!藤原君それ以上は禁止!」
「む、ここからが本番なんだが」
「だからダメなの!」
相原が恥ずかしそう頬を朱に染めながら言う。
「待て」
俺は会話を遮った。
相原の昔話も気になるところだが、それどころではないことがある。
「眼鏡、なんかおかしいよなぁ?」
「何がだ?」
「なぁんでお前が相原の過去を知ってる風な感じで話してるのかなぁ?」
しかも相原もそれを受け入れている感じの話し方だったし。
「簡単な話だ。俺と相原は小学校の時からの幼馴染だからだ」
明かされる衝撃の事実。
「おさな……なじみだと……」
「ああ、家が近かったからな」
「え、そうなの? みさっち可哀想」
「それは知らなかったね」
俺たちの反応にハカセは首を縦に振って答えた。
貴様相原の幼馴染だと? いったいどんな徳を積んだらそんな関係になれるんだよ。お前過去にすごい発明とか戦争止めたりとかしちゃった男子なの?
俺にとって衝撃の事実が発覚したにも関わらず、ハカセはまるでどうでもいい情報かの如くいつも通りの表情を崩さない。
もっと誇れよ胸張れよ。天使と幼馴染なんて誰もが望んでなれる関係じゃないんだぞ。
「ふっ、昔はよくゲームをして遊んだな」
「そうだね。二人でずっとゲームしてた時もあったね」
「懐かしい思い出だ」
「中学になってからは全然遊ばなくなったよね。なんでだろう?」
「さあな。でも中学生の男女なんてそんなものだから気にするな」
「なんでお前はそんな達観してんだよ」
「それにしても、意外な事実発覚だよ。みさっち唯一の汚点だね」
さらっとハカセをディスる篠宮。ハカセが幼馴染であること以外欠点がない相原を逆に褒めるべきだろうか。とは言えハカセが幼馴染なのも汚点なのかどうか判断が難しいところではある。変だけど悪いやつではないからな。
「篠宮、それは相原を完全に理解していないからそう言えるに過ぎない。真の相原を知れば汚点の一つや二つ増えても不思議ではないぞ」
「自分が汚点と言われていることをまずは否定した方がいいんじゃないかな」
佐伯が静かに突っ込みを入れる。
「俺はその程度のことは気にしない」
「どうする篠宮? 人間性で完敗してるぞ」
「まだ負けたとは決まってないよ……」
「さいですか」
本当のこと言っただけなのにそんな顔で睨むなよ。下手に攻撃して返り討ちにあっただけだろうに、俺じゃなくて自分を恨め。
しかし、それでも言い返さずにサンドバックになるのもまた俺の優しさってわけ。ラブ&ピース。世界は愛で満ちている。俺たちのように隙あらばディスり合う関係にはとても似合わない言葉。
「じゃあみんな上行くよ!」
再度受付を済ませた篠宮に着いて行き、エレベーターで上がる。
まずは靴とボールを選んで各自集合とのことで、一瞬解散となった。
靴も自販機みたいな感じで自分の靴のサイズのボタンを押せば落ちて来るシステム。これイタズラで連打するやつ出てきてもおかしくないよな。
靴を片手に今度はボールを吟味する。ボールにでっかく書いてある数字の意味が全くわならなかったけど、持ってみれば数字が大きいほど重いことがわかった。
周りを見れば相原と篠宮が仲良く二人でボールを選んでいた。それに比べて男ときたら、俺含めて自由行動になった途端に勝手に動き始めるんだから。あれ、でもよく見たらハカセと佐伯は一緒にいるじゃねえか。俺をハブるなよ。でもまあボールを選ぶ時まで一緒にいるのも暑苦しいからこのままでいいか。
結局10と書かれたボールがしっくり来たのでそれを持っていくことにした。
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