第28話 (番外編)闘争の途中

 ※番外編です。本編の続きを読みたいかたは飛ばしてください。





「は⁉︎ なんだそれ⁉︎」


 スタートした瞬間、俺以外のカートがスタートダッシュを決めて猛加速していた。俺だけがゆっくりと加速して置いていかれる展開となる。


 おいおいスタートダッシュのコマンドとかあったのかよ。そんな情報誰も教えてくれなかったじゃねぇか。戦う前から既に俺は出遅れていたということか。いや、それよりも気になることは。


「篠宮テメェ!初めてなんて嘘吐きやがってこの野郎!」


 初めてとか言いながら華麗にスタートダッシュを決めたペテン野郎に向かって叫ぶ。言いながらも画面からは視線を外さない。


「私、これは初めてとは言ったけど、テレビゲームの方はやったことないとは言ってないもんね!」

「なっ……汚ねぇぞ篠宮!」

「はっはっは!勝負は戦う前から始まっているんだよ!」


 こいつ地獄に落ちてくれないかな。


 画面には自分の順位と相手との距離が示されている。俺は当然4位。前の人のプレイを見ながら操作感の予習をしたから操作は問題ない。少し離されているが俺は知っている。このゲームには運の要素も多分に含まれているということを。


「なんか来い!」


 しっかりとアイテムボックスを割ってお助けアイテムを入手する。総じて後ろの順位にいる程良いアイテムが出やすいのもさっき確認済みだ。


 出てきたのは赤い甲羅。確かホーミング機能をもった甲羅で相手を攻撃できたはずだ。


「やるな相原。だが俺には効かん」

「まだまだこれからだよ!」


 そっちはそっちで何やら戦いが行われているんですね。俺の画面からその戦い全然見えないんだけど。


「篠宮、その首貰い受ける!覚悟しろ!」


 俺を騙した罪、万死に値する。我が赤甲羅の前に弾け飛ぶがいい。

 放った甲羅は篠宮のカートを追尾し、よもや激突と思ったが、ぶつかる直前で俺の甲羅が弾けた。


「なんだと⁉︎」

「甘いねざっきー!」


 一瞬確認できた状況は篠宮のカートのケツにアイテムがあり、赤甲羅はそのアイテムに当たって消滅した。


 そうか、後ろからの攻撃には自分のアイテムで相殺することができるのか。


 こいつ、やはり手慣れてやがるな。何がこれは初めてだ。ゲームの知識を持っているから充分俺より強いじゃねぇか。


 まずいな、4位のまま一週目が終わった。


 順位は上からハカセ、相原、篠宮、俺。このままでは勝つどころか罰ゲームを受けさせられる羽目になってしまう。とはいえおそらく俺以外は経験者なことから、俺は運の勝負に持っていくしか勝ち目はない。


 赤い甲羅やなんか無敵になれる星とか出てきたけど、篠宮と順位を抜きつ抜かれつするだけで大勢に影響がない。


「くそっ、このままでは篠宮と泥試合を続けるだけになる」

「神崎君頑張って!」

「サンキュー相原!」


 その声だけで俺の力が漲ってくるぜ。


「まずはお前からだ篠宮ぁ!」

「させるかああぁ!」


 抜きつ抜かれつの攻防が続く。3位と4位は雲泥の差があるのでお互い絶対に負けられない戦いを繰り広げる。俺の目標は勝ち以外ないから、こんなところで足踏みしている時間はない。


 2週目も終わりに差し掛かる。どこかで一発逆転のチャンスを得なければそろそろキツくなってくる。ただ、アイテムが強いおかげが1位までの距離はどんどん詰まってきていた。全員にまだチャンスはある。


「…………来た!」


 俺のアイテム欄にはカミナリマークが刻まれている。これもさっき見たやつだ。使えば自分以外のカートが問答無用で小さくなる。


 最下位だからこそ巡って来たチャンスを生かすのはここ。溜めて最後に使うのも考えたが、その間に他のアイテムを取れないのはマイナスになりそうな気がしたからここで一気に攻める。


「喰らえ最下位の底力じゃあい!」


 天からの雷が他のカートを極上サイズへと縮小する。


 とりあえず篠宮の車を踏み潰しておいた。やるなら徹底的にだ。


「ああ!ざっきー酷いよ!」

「勝負の世界に情など不要! ほらお前らもだ!」


 相原もハカセも踏み潰して俺はトップへ躍り出る。これが下克上だ。


「運がいいな八尋。だがまだ終わっていない」

「私も負けないよ!」

「俺だって負けんぞ。やるからにはガチなんでな!」


 逃げる俺を猛追する三人。ハンドルを握る手に汗が滲む。高鳴る鼓動は見えてきた勝ちへの希望とは別に、内なる高揚感も含まれていた。


 勝ち負けも重要だけど、俺はそれ以上にこの状況を楽しんでいたのだ。


 友達と外で遊ぶゲームはこんなにも心が躍るものだったのか。考えてみればあまりこういうことしてこなかったしな……って感慨に耽る場合じゃない集中しろ。


「うおおおお!このままじゃ私が罰ゲームじゃないかああああ」

「人を騙した報いを受けるんだな篠宮ぁ!」


 踏み潰してきた残骸が叫んでいるのを尻目に最後のアイテムボックスを駆け抜ける。


「バナナの皮か」


 これは踏んだ相手を滑らせる効果があったはず。だが今はこれは敷くべきではないことを俺は学んでいる。


 ケツにバナナの皮をセットした状態をキープして走る。これで後ろからの攻撃にも耐えられる。つまり俺の勝利は盤石のものになる。


「勝ったな……」


 後はビリが誰になるか拝見させてもらおうじゃないか。相原だったら何をお願いしようかな。自己紹介の時趣味が料理って言ってたし、手料理とか食べさせてもらえないかなぁ。ぐへへ。


 なんて、勝った先の想像をしている時だった。


「それはどうかなぁ!」

「ん?」


 篠宮の気迫の籠った声が聞こえる。


 いやなんかものすごいスピードで青い甲羅が俺のところに飛んできているんですけど。だが問題ない。俺のケツにはバナナの皮があるんだからな。


「それがどうした! 俺のケツにはバナナの皮があるんだよってなんか空飛んでるんですけどぉぉ!」


 しかも殺意高そうトゲまで付いてるし。絶対殺す意志を甲羅から感じる。え?これ逃げ場無くね?


 そう思った瞬間、俺の上で狙いを定めるようにクルクル回っていた甲羅がとうとう俺目掛けて落ちて来て、強力な爆風と共に俺のカートが宙に舞う。


「そんなのありかよおおあおあお!」

「必殺青甲羅アタックなり!」


 まずいぞ。もうすぐゴールだと言うのにここでのクラッシュは死に直結する。早く動けるようになってくれ俺のカート!


「ではオマケも渡そう」

「おいふざけんな! それはマジでやばいって!」

「やるなら徹底的にやる」


 起き上がって進もうとした俺にハカセの赤甲羅が追撃し、さらに転がる。俺が何をしたって言うんだ。ちょっと後ろから雷落としてみんなを踏んづけただけじゃないか。わりと酷いことしてたわ。でも勝負だからね。じゃあ俺が吹き飛ばされたのも勝負だから仕方ないってことだね。


「それを待ってました!」

「何だと⁉︎」


 俺を追い抜いた相原がハカセに赤甲羅を投げた。俺に死体蹴り赤甲羅をぶつけたハカセに守るものはなく、相原の甲羅をモロに食らって吹き飛んだ。


「因果応報だなハカセ! 人に嫌がらせをしたら自分に帰って来るんだよ俺みたいにな!」

「それ自分で言ってて悲しくならないか」


 後ろから佐伯のツッコミが入った。


「ざっきーお先〜」


 篠宮が俺の横をすり抜けて行く。


 ハカセに抜かれ、相原に抜かれ、篠宮に抜かれた。あれ?俺今最下位じゃね?


 俺の画面には最下位を示す4の数値が刻まれていた。


 うっそだろ俺さっきまで1位だったのに気づいたら最下位になってるの?


「やった!勝ったぁ!」


 横から聞こえる勝利の歓声。相原が1位でゴールしたようだった。


 このまま負けて相原に罰ゲームを執行されるのも悪くないな。とは思ったもののわざと負けるなんて俺のプライドが許さない。最後の最後まで諦めない姿勢は見せて行く。


「ゴール!2位!」


 次いで篠宮がゴール。残るは俺とハカセのみ。


 アイテムはないので純粋な走力勝負になり、俺に分が悪いのは明白だけど、諦めない。


「うおおおおおおお!」


 アクセル全開で追い縋っても、その背中は近くて遠く俺の追い上げは最後まで届かなかった。勝敗が完全に決した瞬間だった。

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