第19話 類は友を呼ぶ

 趣味、それは人生の彩りらしい。いや高校生が何言ってんだよと思うかもしれないけど、目の前に座る眼鏡がそう言ってるんだから人によってはそうなのだろう。俺にはよくわからんが。


「まゆたんの可愛さは世界を救う」


 なんて真面目な顔で言うハカセを見ながら今日も飯を煽る。突然の意味不明発言にも直ぐに突っ込まなくなった辺り俺も成長しているな。うん。


 広い学食の中で、いつも通りに窓際のテーブル席で飯を食らう。みんな自分の席とか決まってないのに、気づいたらいつも同じ席に座っている状況。ここはもはや俺の席と言っても過言ではないのは? とさえ思えてくる。周りの奴らの風貌も代わり映えしないのを見ると、このセルフ指定席システムは暗黙の了解みたいになっているのかもしれない。あるよね、自由席なのに半分指定席みたいな感じ。いつも通うからこその感覚だな。


「ハカセは何を言ってるの?」


 ハカセの隣に座る篠宮が呆れたように言う。


「趣味の話だが?」

「脈絡無さすぎでしょ。突然まゆたんとか言われてもどう反応すればいいかわからないんだけど」

「なんだ、まゆたんを知らないのか?」

「いや知らないけど」

「ふっ」


 篠宮を嘲るように鼻を鳴らす。


「な、なんかムカつくううううう!」


 いやあ、昼ごはんも中々騒がしくなってきたなぁ。ハカセに翻弄されて喚く篠宮を見てそう思う。


 気がつけば篠宮までもが昼を共にしている。お前は女子と食ってろよと思わないでもないが、彼女が俺たちと食べたいのであればそれを断る理由もない。


 ただ、男三人の中に女子一人ってのもな。まあ俺が気にすることでもないんだけど。


「篠宮が突っ込んでくれると俺たちの平和が保たれていいな」

「神崎、思っていても言っちゃいけないことだってある」

「それは同意とも取れるぞ?」

「…………ノーコメントだ」

「そこの二人もこの変人の相手をしてよ! 私だけじゃ手に負えないんだけど!」

「安心しろ篠宮、そいつは誰の手にも負えない」

「全然安心じゃない!」


 ハカセを御せる人間などこの世にいるのだろうか。今日はいい天気だねって言ったら俺はバナナが好きだって回答が返ってきても驚かない男だぞ。


「では改めてまゆたんの可愛さについて話そう」

「どんだけまゆたんの話をしたいの⁉︎ あと誰⁉︎」

「まゆたんは俺が出会った光だ。みんなに共有したいと思うのは普通だと思うが」


 な? 普通の思考では抗えないんだよこれは。


 ただ、篠宮もハカセとこうしてちゃんと会話するのが初めてだから圧倒されているだけ。俺みたいに慣れればこんなのでもある程度普通に意思の疎通はできるようになる。べつにハカセだって常にぶっ飛んでるわけではなく、たまに……いやちょいちょいぶっ飛んでるくらいで、真面目な話の時は真面目に話せる。いつもそうしてくれないかなぁ。


「で、まゆたんって誰なんだ?」


 佐伯もハカセイズムに慣れたのか、もう何が来ても動じない領域まで辿り着いてた。今だってスマートに会話を進めようとしているし、イケメンの適応力すごい。きっと変なのに絡まれた経験を多数お持ちなのだろう。


 だからいつだって突っ込むのは俺の役目だった。ありがとう篠宮。その腕、磨き続けろよ。


「さっきも言ったが、俺にとっての光だ」

「つまりどういうことだ?」

「そのままの意味だが」

「そうか……それはよかったな」


 佐伯諦めるな。なにがよかったんだ? ええ?

 誰って聞いて光って返ってきたらそりゃ諦めたくもなるけどさ、もうちょっと踏み込んでくれてもいいんじゃないか。おい諦めたような笑みを浮かべるな佐伯。まだ早いぞ佐伯。


「いやよくねぇよ!」


 凪の気持ちで耐えようとしたがとうとう突っ込んでしまった。慣れていてもつい突っ込んでしまうこの男、やはり只者ではない。いや、ただのアホなんだけどさ。


「誰って聞いて、俺にとっての光って全然わかんねぇんだよ答えが。まゆたんは誰なんだよ。俺たちにわかる言語で教えてくれ」

「そうだな、つまるところ天使のような存在だ」

「おっけー把握した」

「ざっきー⁉︎」


 何を驚いている篠宮。これほどわかりやすい答えがどこにある。


 天使のような存在。つまり俺にとっての相原のような存在。そんなのもう答えは決まりきってるじゃないか。


「まゆたんはアイドルなんだな」

「ふっ、さすがは八尋だ」


 ハカセが眼鏡をクイっと持ち上げる。なんか今の本当のハカセっぽい。


「いや今のでわかるざっきーもキモいんだけど」

「神崎も同類か」

「お前ら会話を進めようとした男に対して口が過ぎるのでは⁉︎」


 アイドルという答えを導き出した俺に対してもっと敬意を持ってもいいのでは。光と天使でアイドルって中々出てこないぞ。相原美咲という我らの天使がいたからこそわかったことだぞ。そうだ相原にも感謝しろお前ら。その相原と言えば、今日も相変わらず天使だったなぁ。いかん、天使に脳を支配されるところだった。


 あと佐伯、ハカセと同類はやめろ。派手に傷つくぞ。


「要はハカセはアイドルにハマったってことか?」

「八尋それは違う。俺はまゆたんとまゆたんが所属するグループにハマったのだ。他のアイドルなど所詮有象無象にすぎん」

「あ、はい」


 やべぇガチ勢じゃんこいつ。アイドルに違いってあるのかよ。俺わかんない。


「俺とまゆたんの出会いは先週の休み」


 なんか急に聞いてもないのに出会いを語り始めたぞこいつ。どんだけ話したいんだよ。


「友人に連れられて初めて行ったライブでのことだった」

「え、ハカセってざっきー達意外に友達いたんだ?」

「篠宮、俺も人並みに傷つくのだが」


 素で驚いている篠宮の言葉にハカセが悲しそうな声で返す。篠宮の悪意無き言動にハカセはダメージを負ったようだった。


「ごめん。本気で驚いたからつい」


 でも言いたいことはわかるぞ篠宮。俺も同じことを言いそうになったからな。ハカセに友達って聞くと失礼だけど疑いたくなるよな。類は友を呼ぶようにハカセの友達がまたハカセと同じ性格だったらと思うとかなりのカオスが想像できる。


 けど類は友を呼ぶ、か。じゃあ俺たちもハカセの類なのかと思うが、佐伯というハカセとは正反対の存在がいるから俺たちは違うだろう。俺も入れてもいいよね?

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