第15話 公園①
「もお、心配したんだから!心配したんだからね!」
「ごめんなさい……」
大事なことは2回言うってこれが正しい使い方だからなハカセ。とはいえ、再会に水を刺すつもりもないので、俺はベンチに置き去りにされた可哀想なランドセルを回収するのだった。本当はお前もご主人様に駆けつけたかたったろうに残念だったな。代わりに俺が運んでやるよ。
「絡みに行かないの?」
いつのまにか横に立っていた相原が言う。着いてきてたのね。
「俺だって空気くらい読めるさ」
せめて落ち着くまでは遠くから見てるくらいが丁度いい。この空気の中でいつもみたいに話しかけに行くほど無粋じゃないさ。待てよ? 相原は俺をそんな風に見てるってことか?
「もしかして相原的には俺ってそういう立ち位置だったりする⁉︎」
「ごめんごめん。ちょっと言ってみただけ」
そう言って相原は悪戯っぽい笑みを俺に向ける。ふひっ、可愛い。この笑顔、今は俺だけに向けらているとはなんたる至福。もうあの姉妹のことなんてどうでも良くなってきたわ!
「でもよかったね。ちゃんと見つかって」
「そうだな」
滾る心の高揚を理性で殺してなんとか表面上は平静を保つ。頑張れ俺の理性。負けるな俺の理性。でも相原にボディタッチされたら負けちゃうかも。
「一人彷徨うのは辛いからな。ほんと早めに見つかってよかったよ」
「神崎君のおかげだね」
さも当然のように言う。
でも俺はそうは思わない。
「どうかな?俺だけだったら話は進まなかったんじゃないか」
ゆいかは俺に対して中々辛辣だし、相原が来なかったらかなり手こずっていたに違いない。
「相原のおかげだよ。助かった」
そう考えれば、相原には大分助けられているわけで、本人がどう思っていようがその功績は讃えられるべきだ。
「じゃあ私たちのおかげだね」
「そういうことだな」
ん?待てよ。これはつまり俺と相原の初の共同作業ということでは。そのまま愛の結晶育んじゃったりしちゃうのでは。よし、結婚式は海の見える丘にしよう。人の夢って書いて儚いって読むらしい。
「さて、いつまであれを眺めているべきか」
「気長に待ちますか」
篠宮姉妹が再会の余韻に浸ってるところに絡みに行くのはまずいと、こうしてベンチの側に立っているが、いい加減こちらに意識を向けていただいてもよろしいのではないでしょうか。気長に待つとどんどんバイトに遅れちゃうんですぅぅ。
あ、ゆいかがこっちを指さした。
なんか篠宮がこっちを見てかなり驚いてる。いやそのままもの凄い勢いでこっち来たしてかやっぱめっちゃ脚速ぇな。俺より速いまであるぞ。
「ざ、ざっきー⁉︎ みさっち⁉︎ なんでここに?」
「こんにちは結菜ちゃん」
「ちーっす篠宮」
慌てふためく篠宮を他所に、俺と相原はいつも通りのテンションでお出迎え。ゆいかから何も聞いてないのかこいつ。
「逆になんで篠宮がここにいるんだ?早く帰れよ」
「ざっきー今まで何見てたの⁉︎」
は? 相原の可愛らしい笑顔だが? それ以外何があるのか。というかこいつよく見ると、
「てか、篠宮泣いてんのか?」
下瞼が赤く腫れている。よほど心配していたのか。珍しいものを見た。
「な、泣いてない! これは汗!」
「おっけー今のでお前らが姉妹って確信したわ」
いやぁ、血で刻まれたDNAは怖いね。なんだかんだ言ってること同じだもん。
「やひろ、おねぇちゃんいじめちゃだめ」
後ろから遅れて着いてきたゆいかが言う。小さい子に言わせるとは卑怯だぞ篠宮。これ以上いじれなくなるじゃねぇか。
「これは俺たちの間では挨拶みたいなもんだから」
「そうなの?」
「そうそう」
「だっておねえちゃん」
「ゆいか、この人の言うことはあまり信用しちゃだめだからね」
「やひろのうそつき」
「悲しいなぁ」
俺としては本当に挨拶くらいの感覚だったのに、そうではなかったようだ。いや、ゆいかの前だからちゃんとしたお姉ちゃんを演じてる可能性もある。
「このひとはいつもてきとうなこというからしんようしちゃだめだっておねえちゃんいってた」
「なんだと?」
おい目を逸らすな篠宮。
「よくしゃしんをみせてくれたから、きょうはなしかけられてすぐにわかった」
「篠宮?」
だから目を逸らすな篠宮。口笛を吹くな音鳴ってないぞ。
「おねえちゃんこうもいってた。でもいいやつなのはまちがいな……むぐ」
「ゆ、ゆいか!」
篠宮がこれ以上余計なことを言わせまいと、焦りながらゆいかの口を塞ぐ。
「ざっきー! 今のはゆいかが勝手に言ってるだけだから!」
「だってさ相原」
「ええ⁉︎ そこで私⁉︎」
「俺が言うより相原が突っ込んだ方が篠宮にダメージあるかと思って」
「もお、いじわるしちゃだめだよ神崎君」
「あれ、俺にダメージが……」
胸に手を当てる。健康なはずなのに、なぜか胸が痛かった。
「まあとにかく、そろそろはなしてやらないとゆいかが死ぬぞ」
なんかさっきからもがき苦しんでるぞ。
俺の言葉にハッとした篠宮は、もがくゆいかの口から手を離し、ゆいかは体の中から失われた酸素を取り込むように大きく深呼吸をした。いやどんだけ強く押さえてたんだよ。妹殺す気かよ。
「おねえちゃんにやられるところだった」
「ご、ごめんね」
「妹大事にしろよな」
「ざっきーもやられたいの?むしろやる?」
「……しねぇよ。俺はまともな人間だからな」
何がとはいわなかったけど、そのやるって絶対に殺すって書いて『やる』と読ませる系のやつでしょ。今俺そう言ったしね。スルーしたけどむしろやるって何?あとこのしねは死ねじゃないからな。殺すに掛けてないからな。
「まともな人間は自分をまともアピールしないと思うな。よく詐欺師が使いそう?」
「相原の前で俺を下げるのはやめろ?」
ほら、下々の諍いを天から眺めるような目をしてる。もう完全に俺ら下に見られてるって気づいて篠宮!
「やひろ、ゆいかおなかすいた」
「そっか。そこの快速チンパンジーに何か買ってもらうといい」
「だれがチンパンジーじゃ!」
「ぐふっ……」
「ゆいかには、はいおやつ」
「ありがとうおねえちゃん!」
鳩尾に強烈な一撃をお見舞いされてその場にうずくまる。やべぇ、今日の昼ごはん全部出てくるかと思ったわ。こいつ力も強いのかよもうこんなんゴリラじゃん。そこまで言ったら首をへし折られて殺人事件に発展しそうだからやめとこ。同級生を殺人犯にするとか忍びねぇよ。まず俺が死にたくねぇし。
「今のは神崎君が悪い。だめだよ女の子にゴリラって言ったら」
「そうだそうだ!みさっちもっとこのデリカシー無し男に言ってやって! ん?ゴリラ?」
「あっ……」
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