第2話 騎士様ラブなのです!

「まず! 私達勇者パーティは一ヶ月ほど前に見事、魔王討伐を終えました」


 そうだな……まさか一年もかかるとは思わなかったが、俺達の冒険は誰一人欠けることなく無事終わった。

 それで、それが何か関係あることなのか?


「関係大アリなのです! コーイチさんは、勇者様が旅立つ前に王様の前で言った事を覚えていないますか?」


 えっと、何か言っていた事は覚えている……魔王を倒したら、何でも願いを一つ叶えてくれるように……だったか?


「そうなのです! その願いなのですが、勇者様の願い事は貴族の一夫多妻制を認めさせる事だったのです!」


 なんだろう……シンジらしいな、なんて思ってしまった。

 元々、ナンバース王国では王族のみが一夫多妻制である……王族の血縁者であれば、一部の貴族もまた、その恩恵に預かれた訳だが、シンジは辺境のムカイ男爵家の次男として生まれた為対象外だ。


 しかし、貴族の子供が増える事は王国にとって良い事ではないのかもしれないし、デメリットもあるだろう……そうでなければ、一夫多妻制なんて多くの転生者が生まれるこの国で遅いくらいだからな。

 なるほど、ミヤコはそれに反対という訳か。


「いえいえ、制度自体はいいのでは~? 反対はしていないのです」


 あれ、そうなの?


「はい。折角異世界に来たのですから、前世で出来なかった事をするのはロマンだと思うのです!」


 それも、そうか。そう言われると、俺は異世界に来ても変わらない気がするな。

 何かロマンを持って、生きる……魔王討伐の報酬で得た大金があれば、それも出来る気がしてきた。


 まあ俺のこれからについてはさておき、それじゃあミヤコは一体どうしてそんなに焦っているのか。


「制度は反対じゃないのですが、何故か同じく魔王を倒した私が報酬の対価にされそうなのです。あてがわれる身としては良い気持ちはしないじゃないですか」


 ああ、そういえば、さっき勇者様と婚約予定だとか言っていたか。

 俺、一夫多妻制について詳しくないんだけど、男性が指名権でも持っているのか?


「違うのです。私のお父様が乗り気なのです! 勇者様の子孫を公爵家に取りいれる為、正妻を目指せっていうのですよぉ」


 あっ、本題は政略結婚の問題だったか。

 それは可哀想だな……転生者の俺からすれば、強制的な結婚だなんてあんまりなものだ。


「そうなのです! そうなのです! ありえねーのです!! しかも、相手が勇者様というのが最悪なのです」


 ミヤコ、口が悪くなっているぞ……って俺以外には聞こえないから大丈夫か。

 しかしミヤコ……シンジはあれでイケメンじゃないか。性格も悪くないどころか老若男女問わず優しい性格だ。


「だーかーら! 中身が問題なのです!」


 そっか、ミヤコには聖女魔法で心の中を覗けてしまうのか。

 えっ……待てよ? 話から察するに、魔法で前世の姿まで見えてしまうって事なのか?


「はいなのです」


 おいおい、マジかよ。じゃあ俺の前世とかも覗けてしまう訳か?

 待ってくれ……俺の前世は冴えない奴なんだ。覗かれたくない!


「コーイチさんの前世はあんまり覗けていないのです。私に心を許すと、はっきりと覗けるようになるのです」


 俺は騎士としての誇りが高くて覗けなかったんだな。常に精神統一できているから。

 まあつまり、なんだ? 逆にシンジはミヤコに心を許していたという事か。


「まあ……そういうこと? 勇者様は私のこと好きなのです……多分。悪い人じゃないのはわかっているのですが、聖女魔法によって見たくない部分まで見せられたのです」


 ……それは、災難だったな。まあそうか、心を覗くって事は、そういう危険性もあるのか。


 俺としては、自分の見られたくない部分を隠せていて安心した……いや、気を許すと覗かれるのか。

 ミヤコには現世のイケメン顔だけ知っていてもらいたい。警戒モード、オン!


「あっ、コーイチさんの前世は断片的に覗けたりするのです。ふふっ、顔や身だしなみは知っているのですよ~」


 もう手遅れだった。

 最悪だ……幻滅した?


「安心してほしいのです。騎士様の冴えない前世、めっちゃタイプなのです!」


 それはなんていうか……嬉しいじゃないか。

 態々冴えないって俺の自虐は表現を知らなかっただけだろうし、気にしていない。ミヤコにタイプと言われて、頬が緩みそうになるくらいには嬉しい。

 あ、でもこの考えも見透かされているのか……それは騎士としてよろしくない。


 だけど、この際だからバシッと訊いておくか。

 なんだ? ミヤコは俺の事好きだったりするのか?


「はいなのです! 寧ろ、大好きな騎士様相手だからこそ、こうして助けを求めているのです!」


 ……え?


「ん~?」


 ガチで言ってる? 冗談じゃなくて……?


「私、騎士様ラブなのです! 昔助けてくれた時から、一途にラブなのです」


 待って、じゃあミヤコが俺を勇者パーティーに連れていったのって。


「騎士様ラブだからなのです」


 毎日俺の夕食だけおかずが少し多かったのって。


「騎士様ラブだからなのです」


 偶に寝ぼけて同じ布団で寝ていたのって。


「騎士様ラブだからなのです」


 おい、最後の確信犯じゃないか……!

 何度かミヤコが失踪したって大事になったの、変な目で見られないようにフォローしてやったのに、意図的だったのかよ。


「あっ……バレてしまっては仕方ないのです。そういう事もある……はず!!」


 好きと言われて嫌な気分はしないが、あの時は大変だったことを反芻する。

 当時は、内気なミヤコを庇護欲で守っていたつもりが、実は計画的犯行だったとは思いもしなかった。


「過去の事は水に流すのです!」


 ……仕方ないな。本筋から話がズレている気がするから見逃してやるか。


「実は、勇者様との縁談は明日なのです。タイムリミットはもう一日切っているのです!」


 おいおいおい……明日!?

 そりゃ焦ってしまうのも納得がいった。

 てか、通りでシンジは今公爵領にいる訳か……ただシンジが前々から目に付けていた宿舎で働く可愛い娘さんがいるからだと思っていた。


「なので、コーイチさんには協力してほしくて~」


 えっ、この流れだとアレか? 嘘の恋人を演じるとか?


「……そうすると勇者様に諦めさせるよりも、コーイチさんが私のお父様に殺される方が早いのです」


 そうだった……ここ、異世界だった。テンプレは通用しないらしい。

 じゃあ俺は何をすればいいんだろうか。

 全く見当もつかない。


「私も見当がつかないのです」


 ん? じゃあ俺に助けを求めたのって……?


「何でもいいので、助けてくれるかな~と思いまして」


 滅茶苦茶だ!

 まさかの無計画……一応俺が出した案は即却下、どうやって縁談を破談にするのか、今から一緒に考えましょうって事か。

 ヤバくね?


「ヤバいのです! 絶体絶命なのです!」


 正直に言えば、俺だってミヤコの婚約に反対だ。

 前世ならば未成年にあたるミヤコに今結婚なんて早い気がする。

 というか、一応俺もシュミオンの騎士として……ミヤコを守って来た身、望まぬ結婚なんて許せない。


「おおっ、騎士様素敵!! 愛しているのです!」


 ……おだてなくても協力するって。

 ミヤコが俺を好きなのはわかったからいいけど、もし冒険の途中にその言動されたらアレだぞ? 同級生を勘違いさせてしまうアレだ!


「同級生? 私はコーイチさんよりも年下なのです! 同級生じゃないのです」


 あーいや、うん。そうだね。

 これは異世界ギャップって奴だ……上手く伝わらなかったらしい。

 何を言いたかったかというと、縁談前日とかいう最悪なタイミングで相談されたけど、俺にとっては良いタイミングだったって事だ。


「騎士様……! 私を慰めてくれているのです?」


 いや、俺が少しでも現実逃避したかっただけだ。

 現状は悪いとしか言いようがない。

 手遅れになる事の絶望を俺は知っている……後味の悪い後悔を二度としてなるものか。

 何か解決策を出さないと!


「頑張って! 騎士様!!」


 ミヤコの事だぞ! ミヤコも考えるんだよ!

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