第30話

「会場へお越しの皆さま、大変長らくお待たせしました。盛大な盛り上がりを見せたバトルアリーナ午前の部でしたが、同時に午後の部の予選大会を実施しておりました。大勢のエントリーを頂いた本大会ですが、たった今。全ての参加者の予選が終了しました。その結果をただいまより発表いたします。栄えある上位十六名はいったい誰なのか。皆さま、モニターをご覧ください」

 モニターが切り替わり、一覧として十六位から表示される。機体名に、タイムと被ダメージ割合を全て数値化し、スコアの低い順からスクロールしていく。

「こんなもの、見るまでも無いんじゃない?」

「確かに参加は確定しているが念のためライバル達を知っておきたい。戦闘において有利を取れるかもしれない」

「情報の有無は勝敗に影響するものね。知っているのと、知らないのでは全く違う」

「その通り。ファントムナイツはバランス型だ。誰に対しても一定以上は戦える。だがマルチロール機である以上、特化機体に長所を押し付けられてしまえば不利になりやすい。不利を覆すためにはドライバーである俺の腕が相手の腕を上回る必要がある。戦術や癖、機体情報が事前にわかれば無駄なダメージを抑えられる。ロールだけでも知っていれば役に立つ。いかなる情報であろうとも相手の情報は集めなければ」

「熱心ね」

「ゲームは勝てなくては面白くないだろう? 勝利の為ならどんな努力も惜しむ気は無い」

 第三位までの発表が終わる。ここまでファントムナイツの名前は無く、残すは二位か、一位かだ。フルスコアだから一位だろうと見ていると、映像が切り替わり、司会者らしき男が映った。

「皆さま、ここまで大勢の猛者達を紹介して参りました。いずれも名だたるドライバー達で、優劣つけ難い強者達でございます。誰が優勝してもおかしくはない、本気で私は思っております。で、す、が! 猛者達の中でも頭一つ抜きん出た結果を残した、勇者と呼ぶにふさわしい活躍を見せたドライバーがいます。その差は脅威の二十点! 誰が取れると思ったか、まさかまさかの百点満点」

 映像が切り替わり、見覚えのある黒の機体を映し出す。ライフルと盾を持つ、バランス型のマルチロール機。熱線の光に照らされて、装甲が赤く黒く照り返す。ロックが解除されると共に、シールドと、ライフルを投げ捨てた。

「一位、悪夢の夜々に駆ける黒騎士。まったく無名のダークホース、期待の新星ファントムナイツだ!」

「なんだあの口上は」

「カッコいいじゃん」

「笑うな」

 ファントムナイツを大きく映し出す。

 編集済みのシミュレーターでの戦闘シーンで、熱線を回避し一刀の下に切り伏せる。それぞれ異なるアングルで軽く三回繰り返す。

「映し過ぎだ」

「怒らないの」

 セイバーを払い納める。赤色の竜の首が大きく傾く。重たい音を立てると、竜の首が地に落ちた。

「そして悪夢の騎士を迎え撃つは我らが街の守護者にて、星の落とし子アルカディアの一角。狩猟と知恵の象徴とされる人馬宮の称号を背負う、セントラル・クロスシティの最高戦力。同点一位、我らがトライブ・アスタリスク!」

 ファントムナイツに代わって、青色の機体を映しだす。

 金の装飾が施された特徴的な杖を手にアリーナのフィールドに立つ。

 ヴォルケニックドラギオンは大きく口を開けながら熱線を吐き出す。熱線が一直線に迫る中、青の機体は回避するような素振りもない。

 杖を掲げる。

 光り輝く魔法陣が空中に展開される。それは青の機体と熱線の間に割り込み、盾となって攻撃を防ぐ。

 杖で地を一度突けば、頭上と、左右で合計三つ。魔法陣が出現し、歯車のように回りだす。青の機体が金の杖を軽く振ると、三つの魔法陣が鋭い光線を放った。

「あれは魔法か。良い火力をしている」

「星見の杖。貴重なマギテックパーツの一種。攻守共に優れた性能を誇るけど、魔法陣を同時に複数も操る事から扱いが極めて難しい。癖が強いけど使いこなせれば強いタイプの武器ね」

「瞬間火力は高そうだ」

「実際高いと思う。紅椿と同等の火力が出てるみたいだし。キルタイムも中々のもの。しかも中距離から叩きだしているって考えれば、相手を追いかけ回さなくて良い分、紅椿以上の火力が出せると見ても良い」

 光の槍が竜を貫く。膝が折れ、頭が垂れる。

 金の杖を一回転させ地を突くと魔法陣が弾けて消えた。

「できることはあの二つだけか?」

「解析してないから分からないけど、もっと色々できるんじゃない? あのビームをぶん回したらセイバーみたいになるでしょ」

「かなり自由度が高いからな、このゲーム。発想次第で何でもできる。しかし、それにしても魔法って。ロボゲーだろ。世界観が壊れる」

「アンタ、ストーリーやってないでしょ。申し訳程度の内容でしかないけど。元々は剣と魔法の世界だったって軽く言及されていますから」

「一応ストーリーはやったんだがな。そういう事なら納得だ」

 音楽と共にモニターが変わる。

「これにて総勢十六名の参加者が出揃いました。いずれも負けず劣らず、強力なドライバーとギアフレームばかりです。果たして優勝は誰が手にするのでしょうか。今から非常に楽しみです。改めて説明しますと、本戦はトーナメント方式で実施されます。ルールは一対一、制限時間は三十分。どちらかのギアフレームが戦闘不能、もしくは降伏した時点で終了となります。なお、誰が誰と対戦するのか、ただいまより抽選にて決定します。皆さま、モニターにご注目ください」

 トーナメント表の下でルーレットが回りだす。左から順に止まっていく。

 ファントムナイツは左から二番目。

 トライブ・アスタリスクは線対称の位置だった。

「あの魔法使い。当たるなら決勝となったか。大会の運営はさぞかし喜んだだろうな」

「アンタも嬉しそうだけど?」

「そう見えるか?」

「すっごく」

 モニター前の人だかりが解散していく。興奮しきった彼ら彼女らは、いったい誰が優勝するのか言い合う。多くの場合は二択で、ファントムナイツか、トライブ・アスタリスクかのどちらかであった。

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スターライト・リベリオン @iamiam

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