七
第27話
「来たんだ。なんか用でもあんの?」
「別に用事があるって訳では無いさ。少し羽を伸ばそうと思ってな。ギンジの奴は船で待ってる、だそうだ」
ベルノートと車に乗り込む。
流線型の黒の車で跳ね上げたドアを下ろす。バッグと帽子を脇に置くとシートとミラーの位置を合わせてエンジンを動かす。
低い唸りを上げて車が目覚める。
各種計器に光が灯り、跳ね上がった後に落ち着く。ハンドルを片手で握りながらサイドブレーキを下ろすと、腹の底に轟く咆哮を上げて走り出した。
「良い車だな。高かっただろう」
「欲しかったらあげるけど?」
「いや、大丈夫だ」
「別に遠慮しなくていいのに。どうせキルして奪った物なんだし」
「なおさら遠慮しておこう」
ドックを飛び出しアクセルを踏み込む。車のいない片側四車線の太い道路をノンストップですっ飛ばす。赤に変わる直前の交差点に飛び込むと、タイヤを軋ませハンドルを切る。
「おいベルノート。スピードの出し過ぎだ。もう少しゆっくり」
減速も無しに曲がりきる。
凄まじい遠心力にアキラは思わずグリップを掴む。両手足を突っ張ることで乗り切ると、ぐったりとシートに寄り掛かる。そんなアキラを見ながら、ベルノートはアクセルを強く踏み込んだ。
「これでもブラックキャットと比べて遅すぎるんだけど。もしかして、怖い?」
「怖くはないが、自分で動かすのと助手席に座るのとでは全然違う」
「それ、怖いって言うんじゃない?」
「怖くはないと言っている」
赤信号で止まる車列に加わる。大通りと交わる大きな交差点ながら横切る車は一台も無い。信号が間もなく変わろうか、という時、ボットが道路を封鎖した。
「コンバットギアフレームが通過します。しばらくお待ちください」
ギアフレームの一団がビルの影から姿を見せる。スターライト・サジタリウスのエンブレムをつけたギアフレームに囲まれて、インセクトレッグの機体が歩く。
藍色をしたムカデにも似た機体は、多量の脚を巧みに動かし交差点を過ぎて行った。
「アルカディア以外のギアフレームが街中にいるなんて」
「今日はイベントをやっているらしい。そこら中にポスターが張ってあるぞ」
メニューから近郊エリアのイベント情報を開く。
「この街のアリーナでバトルトーナメントをやってるそうだ。午前の部が生身で、午後からはギアフレームとあるな」
「気になる?」
「少しな」
ボットが封鎖を解除する。前から順に車が動き出す。
ベルノートはアクセルを急に踏み込むと、強引に左折レーンに割って入り左折した。
「おい、こっちは」
「いいでしょ別に。ちょっと見るくらい。時間には余裕があるんだし、私だって気になってんだから」
エンジン音を響かせる。真正面に建つアリーナを見ながらベルノートは微笑む。
アリーナ近くの立体駐車場に車を止める。エンジンを切り、二人は降りてアリーナへ向かう。
道中のごった返す人の中、多くの露店が並ぶ。
射的にくじ引き、輪投げの他に、金魚すくいや、レトロなピンボール台もある。ゲームに限らず衣服やアクセサリーに加えて、ギアフレーム用の装飾品が並ぶ。ドリームキャッチャーに踊る人形、更には猫や犬、鳥に兎といったデジタルペットまで。目移りする程、種々様々だ。
猫のデジタルペットに釘付けのベルノートに気づくと、アキラは笑って言った。
「欲しければ買ってやるぞ」
「結構です」
アリーナへと入っていく。
ロビーでは外と変わらず大勢の人が居て各々が好きに談笑している。アリーナの観客席へと移動しようとした時、大会参加者受付中の言葉が目に入った。
「まだエントリーが間に合うのか」
「優勝賞金は百万クレジット。面白そうじゃん」
「意外だな。キルされたくないから参加しないかと思ったが」
「キルされてドロップするのが嫌なだけ」
「アリーナならキルされてもドロップしないんだったな。丁度良い、お前と全力で戦ってみたいと思っていた所だ」
「その前に、私と当たるよう努力しなさい」
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