六
第24話
格納庫にファントムナイツを納める。
既に修理が始まっていたブラックキャットと、バレットファングを横目に、ブリッジへと向かう。二人は既にブリッジに居て、互いに向き合い黙り込んでいた。
「おう、来たか。丁度、今後について話していた所だ」
「まずは報酬を払いなさい。話はそれからでしょうが」
「そうしたいのは山々だがな。お前、俺の店を丸ごと吹き飛ばしちまっただろうが。手持ちのカネしか残ってねぇよ」
「助けるんじゃなかった」
これを見よがしに溜め息をつく。近くの椅子を引き寄せて、倒れるように座り込む。脚を組み、頬杖をつけば、ベルノートは正面モニターに目を向けた。
「それで支払額はいくらだ」
「百万」
「は?」
「百万。そういう約束だったでしょ」
モニターを見たまま静かに答える。
砂上の様子が映し出されており、どこまでも続く砂漠を太陽が高い位置から照らす。霞みがかった遥か遠くには、空の色に同化した山脈が長々と続く。
ギンジは腕を組むと、近くの壁に寄り掛かった。
「そんな額、知らねぇぞ。俺への借りはどうした。内訳を言え、内訳を」
「私が助けに行った、これでアンタへの借りはチャラ。そんでコイツの装備とパーツと、使用した弾薬、燃料、修理代。手数料諸々込みで百万クレジット」
「まてまて。俺にコイツの装備代を払えってか。勘弁してくれよ」
ギンジへと目を向け、深いため息をつく。
ベルノートは立ち上がるとギンジに詰め寄る。彼の目と鼻の先に人差し指を突きつけながら、唸るようにして言った。
「あのね。救出にかかった費用は全額そっち持ちって契約だった。そして私一人分だけ払う、とは言ってない。何人いようが全額アンタが支払うの。そういう条件で依頼を受けた。ファントムナイツの装備はアンタの救助に必要な経費。だからアンタが全額支払う。わかった?」
あまりの剣幕に後ずさる。だが背後の壁が行く手を阻む。
今にも噛みつかんばかりの勢いに、ギンジは頷く事しかできなかった。
「むちゃくちゃだぜ、全く。で、アキラさんよ。お前、言い値でアルティメットモジュールを買うって言ったよな。仲介料を払ってもらおうか」
「ベルノートにならともかく。仲介如きにカネを払うとは言ってない。第一アルティメットモジュールは手に入れてない。品がないんだ、対価を払う必要もない」
「ですよねー。始めっから期待なんてしてなかったわ、クソが」
ギンジは煙草を取り出す。だがベルノートの手により有無を言わさず取り上げられる。
煙草をゴミ箱に投げ捨てると、睨みつけながら言った。
「アンタら二人で五百万払え。できなければ今すぐ機体を解体するか、アンタら二人ともキルする。さぁ、選びなさい」
「わかった。わかったから機体の解体は待ってくれ。三百万の当てはある。さっき逃がした自堕落大公を潰せば良い。俺のファントムナイツのパーツ代の百万と理解できるが、残りの百万はどこから出てきた?」
「利子って知ってる?」
「そんな横暴な」
思わずギンジが口を挟む。
ベルノートはそんなギンジを見下すように、胸の下で腕を組んだ。
「出せないなら解体する」
「わかったわかった。なんとかするから。アキラ、お前も協力しろ。お前にも責任があるんだからな。俺が逃げたらコイツに請求しておいてくれ」
「当然」
アキラは思わず眉を潜める。ギンジはアキラの肩に手を置くと、連帯責任だ、と呟く。
「仕事は斡旋してあげるからアンタ等二人で頑張りなさい。わかった?」
渋々ながら二人は頷く。
当たり散らして満足したのか、二人に背中を向けるとベルノートは再び椅子に腰を下ろした。
「自堕落大公の場所はわかるか? さっきの戦闘では仕留め損なった」
「見失った。戦闘に巻き込まれて偵察ボットは破壊された」
「奴の居場所はわからないと言う訳か」
「そうでもない」
モニターに周辺地図を表示させる。
「自堕落大公の走行ルートから大体の見当を付けることができる。進路上にはいくつかの街や村が点在するけど、あれだけ大きな地上戦艦が入港できる港は少ない。その内の一つがここ」
「セントラル・クロスシティ」
「その通り。デフォルト顔の割りに詳しいじゃん」
アキラはモニターを見上げる。
マップには現在位置の砂漠地帯を中心に、荒野、山岳、草原地帯に、海、大河、ツンドラ、サバンナ、溶岩、樹海等の多彩な地形や気候が広がっている。砂漠とそして草原と、海の三つが交差する中心に大きな街が描かれており、小さな文字でセントラル・クロスシティと記されていた。
「チェックメイトは航行不能にまではならなかったけど、先の戦闘で多くの武装を失っている。自堕落大公からすれば、さっさとドック入りして修理したいはず。ならば自堕落大公が向かう先はセントラル・クロスシティって訳」
「ホイールを破壊できれば良かったんだがな」
「仕方なかったんじゃない? チェックメイトが履いていたマンモスホイールはシールド付きで硬いものだし。あの時は初期機体だった。例え今のアンタの機体でも一つ破壊するのがやっとでしょ。見たところ左右に十六本ずつ装備しているから、一つ破壊しても航行不能にはならない。本気で壊すつもりなら、対艦用徹甲弾でも撃ちこまないと」
「ホワイト・レイ・シリウスならば破壊できたんだがな」
「ごめん、聞こえなかった。今なんて?」
「いや、何でも無い」
アキラは言って片足に体重を掛けて、腰に片手を当てながら巨大な地図を見上げる。
「手っ取り早く、セントラル・クロスシティで暗殺したい所だが」
「もちろん効率は一番いい。けどそんな事をすればアルカディアの連中が黙っていない。そもそもシティ内にギアフレームの持ち込みなんてできないし、武器の所持も禁じられている。システム的に持ちこめるけど、アルカディアが絶対中立って決めた以上従わないとキルされる」
ため息をつき、口元を手で覆う。そんなアキラを横目で見やると、ベルノートは鼻で笑った。
「大丈夫。策ならある。でもその前に補給しないとね。旅人の安らぎ、進路をセントラル・クロスシティへ。私達も入港する」
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