第22話


 二機のギアフレームが飛び退く。そしてブラックキャットは黒のセイバーを構える。深くしゃがみ込み、飛び上がりつつオーバーブーストを噴かす。超長距離からのミサイルを躱しつつ、切って落として突き進む。元凶の黒い機体を確認すると、ブラックキャットの瞳が白く光り輝いた。

「アルティメット、シャドウミラージュ」

 黒のセイバーを後ろ手に構え、一直線に飛び掛かる。タッチパネルに目を向けて、新たな機体の機体の名前を確認する。

 機体名、ファントムナイツ。

 亡霊の名前を冠する通り黒一色で、色だけならばブラックキャットにも近い。だが機体のコンセプトは全く異なり、遠近中距離で戦えるバランスの取れた機体だ。だが近接特化のブラックキャットには劣ると判断し、ベルノートは迷うことなく切りかかった。

 夜桜八戒の一撃を、ファントムナイツは深紅のセイバーで受け止める。鍔迫り合いへと派生し、黒の桜吹雪と深紅の粒子が舞う。止められたことに驚き目を見開くも、二度、三度、と切りつける。

 互いに払い退けた後、ブラックキャットは素早く背後に回り込む。背後からの一撃を、振り向き黒のセイバーを受ける。再び鍔迫り合いとなり、二機のギアフレームは同時にオーバーブーストを起動した。

「待て、ブラックキャット。俺だ。アキラだ」

 右に、左に捌きながらアキラが叫ぶ。

 姿の見えないブラックキャットの剣戟を捌く。背後からの一撃を危うい所で受け止め、払い、反撃の一太刀を叩きこむ。すり抜ける深紅の刃を返して黒のセイバーを止めた。

「俺は味方だ。よく見ろ。このセイバーはお前のところにあった紅椿だぞ」

 ブラックキャットの瞳から白い光が消え失せる。互いにオーバーブーストを停止させ、切り払い、ファントムナイツから距離を置く。

 お互いに武器を構えつつ攻撃の意志の有無を確かめると、ようやくセイバーを下ろした。

「アンタのせいでアルティメットを無駄打ちしたじゃないの! 機体名を変えたんなら言いなさいって!」

 ベルノートの声に眉をひそめながら、タッチパネルに触れて通信の音量を下げる。風の音にかき消されるほど小さくすると、ため息をつき、静かな口調で言った。

「あまり騒がないでくれ。姉にキレられる」

「今、目の前で私がキレてんだけど?」

「だから悪かった」

 警報。そして爆風。

 盾で防ぎつつブラックキャットを庇う。続く警報に従い回避を入れれば、元居た場所にミサイルが落ちる。巨大な爆発が沸き起こり、大きなカルデラを作り出す。砂埃が舞い上がる中、レーダーに迫る機体の姿が見えた。

 茶色の機体が砂埃から飛び出す。そして二丁のライフルを向ける。

 ジャックポットとファントムナイツは互いにライフルを突きつけ合うと、同時にブースターを始動した。

「その声、ラファルグ・ベータのドライバーだろ。前の機体はどうしたよ」

「気前の良い客が居てね」

「そいつは良かった。本当は黒猫狙いだったが、お前の機体も俺が頂く」

「やってみろよ、ジャストミート。初期機体に負けたお前に、俺が負けると思うか」

「随分と偉そうな口を利くじゃねぇか。調子に乗るなよデフォルト顔が」

 ブースターを噴かして空高くへと距離を置く。ファントムナイツはオーバーブーストを起動して負けじと茶色の機体を追う。

「おいベルノート。奴は俺が貰い受ける。依頼人の元へ行け」

「それ、私の獲物なんだけど」

「お前がキルされないように守ってやってると思え。コイツをスクラップにしたら全部譲ってやるから我慢しろ」

「いつかアンタをぶちのめしてやる」

 ウエスタンビューへとブラックキャットを先に向かわせ、ジャックポット・オールセブンと対峙する。横への回避を入れ続け、互いに牽制射撃し、円を描く。一弾倉分撃ち尽くすと、ファントムナイツはオーバーブーストを使い更に上空へと距離を取った。

「逃がさねぇ。フルメタルジャケット、奴を狙え」

 飛行戦艦の対空砲が低い音を響かせる。砲煙を朝の空へと吐き出し、反動で傾く船体を立て直す。パルスドライブは破損したままで、時折黒煙が上がる。

「ブラックキャット。飛行戦艦をなんとかしろ」

 空中で炸裂する砲の中を掻い潜り、ジャックポットの射撃を防ぐ。鳴り止まぬ警報を聞き分けて、対空砲を撃ち落とす。

「アンタはいっつも。もういい。旅人の安らぎ、対艦ミサイル発射」

 荒野の遥か遠くで対艦ミサイルの眩い光が空へ昇っていく。大量の煙を吐き出して、それは反転し、地表近くまで高度を下げる。一段と速度を上げるとミサイルはフルメタルジャケットへと飛んでいく。

「おい、バカ。威力が高すぎる。村ごと吹き飛ばす気か」

 叫ぶギンジに、ブラックキャットはセイバーを突き立てる。悲鳴を上げたが、麻縄が切られ解放されたと気づく。ギンジは自らのギアフレーム、バレットファングに飛び乗った。

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