第20話

「紅椿。本当に使ってもいいのか」

「いいけど。ちゃんと活躍してよね。旅人の安らぎ、カタパルトハッチ開け」

 脚部パーツを高機動かつ重装甲化。腕パーツの出力を数倍近くも上昇させて、胸部の装甲をさらに増す。オーバーブーストを低燃費化させ、更にヘッドパーツの索敵範囲と火器管制能力を大幅に向上させる。

「じゃあ、私は先に行ってるから、なにがなんでも間に合わせなさいよ」

「善処しよう」

 忘れず武装も更新していく。

 セイバーを紅椿に変更。ミサイルを小型化、かつ多弾倉化し倍の四十八発に増弾する。ハンドガンを放棄し、イオンカノンに変える。取り回しを犠牲に、高威力、長射程化されたロングレンジライフルに交換し、シールドをエネルギー兵器に対応可能なマルチシールドに変えた。

 塗装は変わらず黒で統一。これを基本兵装としてマイセットに保存しておく。シミュレーターを起動すると、軽く動かし確認する。

 今までとは全く違う。動作、エイム、索敵の全てが早く、高性能だ。ギアフレームを模したカカシを紅椿で真っ二つにすると、シミュレーターを終了し、機体の名前を変更した。

 広大な砂の海が広がる。

 それは見える限りどこまでも続く。遥か彼方、霞みの向こうに消えるまで。砂丘の峰が波打っている。それこそまさに波間のようで、砂でできた海だ。

 そんな波間に向かってラファルグ・ベータは高度を下げていく。送られてきた座標まで、あと少し。指示された高度、速度、方角で飛んでいると、すぐ目の前で砂が隆起し、旅人の安らぎが浮上した。

 航行しながら船の一部が開いていく。離着陸パッドが露出し誘導灯が展開される。砂煙が立ち込める中、赤い灯りが列を成す。

 四つの投光器に導かれ、ラファルグ・ベータは高度を落とす。潜砂船が巻き上げる砂吹雪の中、速度を合わせ、目標の離着陸パッドに着陸する。即座にロボットアームが機体を支え、クレーンが機体を釣り上げる。燃料ホースが接続されれば巨大な扉が開き、機体を奥へと運び込む。

 冷水のカーテンを抜けて機体の冷却を行う。高圧の風が、立ち込める水蒸気ごと水滴を吹き飛ばす。扉の前でクレーンが止まった時、大量のロボットアームがラファルグ・ベータを包み込んだ。

 レーザードリルを取り外し、ライフルを渡す。

 両手両足を掴み、四肢のパーツを切り離す。ヘッドパーツも取り外し、胸部装甲を引き剥がす。オーバーブーストを分解すると無防備にコックピットが露出していく。

 クレーンが支えるコックピットの中で、アキラは音楽を再生させる。好きなバンドの曲で、やや暗く、静かな調子でギターを奏でる。軽く鼻で歌っていると、ロボットアームが新たなパーツを持ってきた。

 新しいオーバーブースト、そして胸部装甲。ヘッドパーツに、両手足と同時進行で組まれていく。肩背面にミサイルポッドを、イオンカノンをハンドガンの代わりに、紅椿をセイバーの代わりに納める。

 最後にロボットアームは、両の腕にマルチシールドとロングレンジライフルを持たせた。

 エネルギーが機体を満たす。

 目の前の扉が開き始める。そして同時に射出口も開いていく。

 燃料ホースと拘束具が外されて、背後のブラスト・ディフレクターが展開されていく。信号が青に変わるのを見て取って、アキラは深く深呼吸する。ブースターを起動すれば、操縦桿を押し込んだ。

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