第19話

「なんだ」

 思わず呟く。

 モニターは黒煙に呑まれ、敵機の姿が見えない。手癖にも似た回避行動を取った時、数千を越す散弾が黒煙に穴を空けた。

「接近戦なら我に勝てると思ったようじゃの。浅いのう」

 ひしゃげた盾を投げつける。キングクラウンへと当たり、派手な爆発が盾を遥か彼方に吹き飛ばす。黒煙の立ち込める中、緑の機体はイオンカノンを向けた。

 慌てて回避をいれる。だが遅く、ラファルグ・ベータの片足を吹き飛ばす。バランスを失いながら距離を取り、盾の代わりにライフルを抜く。

「リアクティブアーマーか。面倒な」

「我に挑むには早すぎた。見たところ初期機体のようじゃが」

「重要なのは機体じゃない。ドライバーの腕だ」

「概ね同意はするが。生憎、我の腕も悪くはないぞ」

 キングクラウンは再び前傾姿勢に移る。今度はレールカノンを展開し、少々長いチャージを行う。射線から逸れる間もなく、電流と閃光が、空へと走った。

 凄まじい砲声が轟き渡る。

 直撃は免れたものの空気を裂くような轟音に、凄まじい余波がラファルグ・ベータを襲う。機体は砲撃の煽りを受けて回転し、重力に招かれ落下していく。どうにか体勢を立て直すと、草原の上に着地した。

「これに懲りたら引くが良い。お主を倒した所で我に何の得にもならぬ」

「面白い。戦いはこうでなくては」

 甚大なダメージ。

 ありとあらゆる警報が騒ぎ立てる。ブースターを噴かし、セイバーを抜いた時、ベルノートの声が響いた。

「そこまで。ラファルグ・ベータ、戦闘を放棄して即刻旅人の安らぎに戻りなさい」

「何ごとだ。まだ俺はやれる」

 チェックメイトが離れていく。スラスターで姿勢を適宜維持しながらチェックメイトを見送る。語尾をやや荒めに言ったのだが、ベルノートは気にしなかった。

「割のいい仕事が入った。そっちは後回しで良い。アンタにも一枚噛ませてあげるから、今すぐ旅人の安らぎに戻りなさい」

「自堕落大公とやり合っていた所だ。ここで引く訳にはいかん」

「武器やパーツは選び放題。燃料、弾薬代も依頼主持ち。その代わり今すぐ加勢に来てくれってさ」

「既に戦闘中と。すぐに行こう」

 傾く機体を安定させ、旅人の安らぎへと急ぐ。オーバーヒートの影響で不安定になりがちなブースターを手動で制御しながら飛ぶ。

「場所はウエスタンビュー。アンタの所からだと距離があるから、燃料弾薬補給しつつ、タッチアンドゴーですぐに来なさい。遅れたら弾薬代は自腹だから」

「客が出すんじゃないのか」

「仕事っぷりは客が決める事なんだから、客に評価されて初めて報酬がでる。間に合わなければ客も支払う義務もない。全く無意味な戦闘で報酬が出るはずないでしょ。当たり前でしょうが」

「だが必ずしも敵が客の近くに居る訳ではない」

「成果は可視化しなきゃ、何もしてないのと一緒。何もしない怠け者に報酬を払う必要はない。報酬が欲しけりゃ間に合わせなさい。使っていいパーツや装備の一覧を送るから、移動しながら選択するように」

 ブースターをありったけ噴かして、山の斜面をなんとか登り切る。速度もまともに出せないまま渓谷の合間をオートパイロットで抜けて行く。

 受信したデータが展開される。武装一覧がタッチパネルに表示され、画面に入りきらぬほどパーツと武装を映し出す。

「アルティメットモジュールが無いぞ」

「そんなもん、ある訳ないでしょ。カネ払え」

 一覧をスクロールする。

 並み程度の下級品から、滅多に見られぬ一級品までピンからキリまで様々だ。

 ラファルグ・ベータと同じパーツは当然のこと、さっき見たキングクラウンのタンクレッグも、パイロランチャーも含まれている。中でも特別に目を引いたのが、赤黒色をしたセイバーだった。

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