四
第16話
「気温、風向き。共に上々。燃料もエネルギーも弾薬も補充済み。入り込んでいた砂は全て取り除いたけど、砂地適応してないから変な戦い方をしたら動けなくなる」
「わかっている。二度と同じ失敗はしないさ。それよりも頼んだ武装は」
「もちろん。用意してある」
ラファルグベータを起動する。モニターに光が灯り、格納庫が映し出される。暫くのアイドリングの後、機体のセルフチェックが実施されていく。
「自堕落大公は地上戦艦の中に居る。奴を引きずりだすためにも、その装備が必要だ。既存兵装では火力が足りん」
言いながら、タッチパネルを操作する。インポート済みの音楽ファイルを展開し、適当にスクロールしていく。リストを止めて、少しの間考えると、再生ボタンを押す。
出だしから一斉に、エレクトリックな音で始まる。アップテンポなリズムながらもどこか暗く、落ち着きのある曲調だ。突き抜けるようなイントロを終え、女性ボーカルが男声よりも低い声で静かに歌い出す。
警報が響く。
タラップが機体から離れる。台車ごと格納庫から移動して昇降路へと入っていく。台車が停止すれば、クレーンがラファルグベータを掴む。
一階層分上昇させる。足元の扉が閉じて昇降路を塞ぐ。左右の壁からアームが伸びると、ラファルグ・ベータにそれぞれ武装を差し出す。左手で新しいライフルを、そして右手でラファルグ・ベータの身の丈程もある巨大な武装を受け取ると、タッチパネルに武装の状態が反映された。
「旅人の安らぎ。浮上」
正面の扉が開かれる。そして更に奥の射出口が開いていく。
登りつつある朝の日差しが真正面より差し込む。自動補正により抑えられた日差しの中、アキラは両手のグローブを引っ張った。
「そういえば名前を聞いてなかったな。俺はアキラだ」
「ベルノート」
「ベルノートか。よろしく頼む」
燃料ホースと拘束具が外される。そして背後にブラスト・ディフレクターが展開されていく。操縦桿を握り締め、ブースターを起動すれば、信号が青に変わった。
「ラファルグ・ベータ。出撃」
操縦桿を一気に押し込む。カタパルトが起動し、機体が急激に加速する。短い射出口を抜けると、朝の日差しへ飛び出した。
「偵察ボットによれば敵艦は山を越えた草原地帯を北上している。速力は三十程度と戦艦にしてはかなり遅い。地上戦艦としても遅い部類に入るけど、それなりの理由があるはず」
「装甲が厚いか。デカい大砲でも積んでるか。ドライバーがデブなのか。いずれにせよ中身さえ引きずりだせればそれで良い」
「レーザードリルにも欠点はある。どんな装甲でも穿つ能力はあるけど、セイバーよりも射程が短い。その上、穴を開けるのに時間もかかる。デカくて重いし、被弾しやすい。対艦杭砲でも良かったんじゃない?」
「パイルバンカーは一瞬で装甲を貫けるメリットも確かにある。だが実体兵器が主武装のラファルグ・ベータに更に実弾武装を積むと機動力が落ち過ぎてしまう。エネルギー兵器にして少しでも軽量にしたかった」
「ふーん、そういうこと」
砂漠地帯は徐々に岩の転がる山岳地帯へと変貌していく。長く伸びるサボテンの影を眼下に一層速度を上昇させる。エネミーのワイバーン共を驚かせ、砂塵と共に突き進む。荒れた岩山を飛び越え、渓谷を突き抜ける。突如開けた視界には、木々が生い茂る広大な盆地と、青々とした草原が遥か彼方まで広がっていた。
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