第12話

「ラファルグ・ベータ。そのまま行きなさい。ここは私が引き受ける」

 女の低めの声が通信機越しに響く。

 機体名はブラックキャット。

 凄まじい速力でたった一機で向かっていく。

「待て。相手は飛行戦艦だぞ。たった一機で何ができる」

「手負いのアンタじゃ邪魔になるだけ。いいからさっさと行きなさい」

 ブラックキャットはオーバーブーストを使い、一層速度を上げていく。自分も後れを取る訳にはいかないと、機体を反転させるも燃料計が悲鳴をあげる。

 五機の敵機は散開し、牽制弾を放つ。

 弾幕の中、ものともせずにブラックキャットは向かって飛ぶ。十字砲火を巧みに躱し、黒のセイバーを引き抜く。そして砂漠の夜空に舞い上がった時、純白に七つの色を含む光がブラックキャットの瞳に宿った。

「アルティメット。シャドウミラージュ」

 弾丸がブラックキャットを貫く。だが装甲にダメージは無い。弾痕も、もちろん傷も。何一つなく佇んでいる。敵が射撃を止めた、その瞬間。ブラックキャットが敵の背後から黒のセイバーで切り裂いた。

 敵はすぐさま反応し、ブラックキャットに銃撃を行う。弾丸はまたもブラックキャットをすり抜けて、黒の機体は幻影のように動きを止める。闇夜の中に姿を消すと、続けざまに二機、斬って落とす。

 たまらず敵は離脱を始める。

 オーバーブーストを起動する短いタイムラグの間に、ブラックキャットが上から踏みつけセイバーで貫く。敵の機体はクッション代わりに踏みつけ砂地へと着地すると、桜の花弁にも似た黒の粒子を撒き散らしながらセイバーを納めた。

 ブラックキャットの瞳から七色の輝きが失せる。同時に幻影も消える。立ち上がりラファルグ・ベータへ振り向くのを見て思わず感嘆のため息を漏らした。

「やるな。だが終わっては無いぞ」

 フルメタルジャケットの主砲が回る。

 巨大な砲身をブラックキャットへと合わせ、砲撃を開始する。天地を震わす轟音に、砲弾が風を切って飛ぶ音が木霊す。直撃ルートでありながらブラックキャットは回避も、ガードさえもせず、たった一言、短く呟いた。

「旅人の安らぎ、浮上せよ」

 大量の砂が空へ舞い上がる。

 砲弾を押し流し、砂の中から巨大な影が跳び上がる。黒く、鈍く輝く金属の巨体は月を背後に、ゆっくりと倒れていく。腹を砂地へと叩きつけると、砂の飛沫を高々とあげた。

「照準、フルメタルジャケット。アルティメット、発射用意」

 葉巻状の艦の一部が開く。砲門が開き、内から砲身が突き出す。砲腔が回転し始めると、純白に七色をしたアルティメットの光が溢れ出した。

「サンドバスター。撃て」

 砲から高圧の砂が吐かれる。

 いくつもの砂丘を吹き飛ばし、一直線に敵艦へ飛ぶ。回避運動を行うが既に遅く、艦尾へと命中する。パルスドライブを撃ち抜くと、粉砕し、小さな誘爆を引き起こした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る