三
第10話
タッチパネルを操作してお気に入りの音楽の再生を押す。パソコン上から移した曲は百曲を軽く超え、スクロールだけでも時間がかかる。どれもこれも好きな曲だが、この曲はそれなりに好きな曲だった。
ドラムの低い音が響く。早いテンポのリズムに合わせてベースの重低音が乗る。軽快なエレキギターの旋律が始まると、中性的なボーカルが澄んだ声で歌いだす。
胸の内で歌いながら星空の下を切って飛ぶ。
どこまでも砂ばかりの夜の砂漠は、ラファルグ・ベータと自分以外に存在しない。風と、装甲にぶつかる砂の音の中、黒の機体は指定座標へと向かう。
音楽の間に小さな警告音がして、タッチパネルに計器を映す。見れば早くも燃料が残り半分を切った所のようだ。緊急呼び出しをしたのと、オーバーブーストを使いすぎたからだろう。離着陸パッドを使わなかったのもあるかもしれない。機体の強化ができれば改善するが、それは今後の課題だ。
いずれにせよ残りの燃料があれば、なんとか辿り着けるはずだ。言うまでも無く、何事もなければの話だが、現実はそう甘くはない。
音楽をかき消す程の警報が響く。
モニターの縁が赤くなり、ミサイルのアイコンが点滅する。レーダーにタッチパネルを切り替えると、三つの点が背後より迫る。速度を維持して機体の向きを反転させれば、迫るミサイルへライフルを向けた。
一つ、二つと撃ち落とす。
迫る三発目に銃口を向け、ライフルの引き金を引く。バースト射撃で放たれた弾丸はライフリングで回転し、一直線にミサイルへ飛ぶ。弾丸はミサイルの弾頭に直撃し、三度目の爆発を引き起こす。
鳴り響く警報を頼りに盾を構えれば、黒煙を切って茶色のギアフレームが飛び出して来た。
「ラファルグ・ベータ。さっきはよくもやってくれたな。この俺から逃げられると思うなよ」
機体名、ジャックポット・オールセブン。
腰から下げた二本のライフルを両手に構える。オーバーブーストの超高速を維持したまま銃口をラファルグ・ベータへと向けた。
「生きていたか。キルしたと思っていたが」
「弾丸一発でくたばる俺じゃねぇ。防弾チョッキくらい着けてるに決まってるだろうが。俺をヤルんなら、頭を狙うこったな」
「覚えておこう」
会話の最中、盾を納めセイバーを抜く。
見たところ射撃特化の中距離タイプで、機動力も極めて高い。高機動を生かして間合い管理をしつつ、ライフルで一方的に攻撃するコンセプトだろう。
思い通りにはさせないと、オーバーブーストを起動した。
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