第9話
鼻息荒く、ギンジは扉を押し開ける。視線だけでアキラを呼ぶと親指で外を示す。
「おら、さっさと行け。向こうが座標を指定してきた。砂漠のど真ん中だがそこで合流しようと言っているんだろう。お前の機体名は伝えてある。ビジネスの話ともなればきっと出迎えてくれるはずだ」
「助かる」
「礼を言うくらいならカネを払え」
「戻ってからと言っただろう」
「はいはい。さっさと行って帰って来い」
ギンジに背中を押されて売り場に戻る。
一人で店の外に出た時だった。
幾人もの人影が囲むように行く手を遮る。嫌な笑みを浮かべながらにじり寄る。一度店に戻る事も考えたが状況に変わりはないだろう。
ため息をつき、ジャケットを整えると右手を腰に当てた。
「やぁやぁ、どうも。こんにちは、っと。ギンジ君のお友達かな。見たところ始めたばかりのルーキーのようだが」
「なんの用だ」
「大した用事じゃぁないさ。ギンジ君とどんな話をしていたのか教えて欲しい。新人の僕ちゃんに、ちょっとお願いしに来ただけさ」
演技じみた身振り手振りで話しながら細身の男が一人、前に出る。
数にして五人ほど。だが、誰もが武装し銃をチラつかせている。彼らの背後に二機のギアフレームが待機しており、ライフルを手に見下ろしていた。
「友達なら自分でギンジに聞けば良いだろう」
「わかってないねぇ。ぜんっぜん、このゲームの事をわかってない」
男はさも、がっかりした、と言わんばかりに大げさに肩を落とす。
アキラは右手を腰に当てたまま、左手を背中に回しメニューを開く。
「このゲームは対人ハクスラゲーって言ってな。対エネミーも無くはないが微々たるものだ。カネも、ギアフレームも、戦艦も、クランさえも。所有者を殺せば手に入る。強さこそがこの世界の正義で、強さって言うのは数だ。そうは思わねぇか? ん?」
「どうだか。雑魚が何人集まった所で神には決して勝てんだろう」
男は笑う。両腕を広げ、天を仰ぐようにして盛大に笑う。背を向けて他の連中達を見ると、彼らもつられて笑い出す。
「素晴らしい。俺も同じ意見だとも。蟻が百匹集まった所で神に勝てるはずが無い。だがな、神だと勘違いしているクソ雑魚ナメクジ野郎にだったら充分すぎる戦力じゃねぇか?」
広げた両手を下ろす。そして男はジャケットの内へと手を伸ばす。
アキラは腰に当てた手の親指をジャケットの内へと滑り込ませる。
知ってか知らずか男は肩越しにアキラを見ると低い声で言った。
「もう一度聞く。奴と何の話をしていた」
「さぁな」
「そうか。ならば死ね」
男は振り向きながら銃を抜く。
ジャケットを素早く捲り上げて、腰から銃を引き抜く。両手で構える間もなく、腰で狙いを定めて引き金を引く。銃口から飛び出す弾丸は互いに互いに向かって飛び、空中ですれ違って飛び抜けた。
弾丸がアキラの頬を掠め飛ぶ。熱と、切られたかのような鋭い痛みが走る。
アキラの放った弾丸は風を切って男へと飛び、その胸に命中した。
男は仰け反り倒れる。
続けざまに銃を放ち、いぶし銀のギアフレームの脚に身を隠す。左手でギアフレームのメニューを操作すると、手元を見ずに緊急呼び出しを押した。
「来い、ラファルグ・ベータ!」
片膝を着いたままオーバーブーストが起動する。立ち上がる中途半端な姿勢でラファルグ・ベーターは急加速し村のゲートを打ち壊す。アキラへとライフルを向ける二機のギアフレームを突き飛ばすと、膝を着きコックピットを開く。
ジャケットを風に広げてコックピットに飛び乗る。装甲を開いたままオーバーブーストを起動すれば短いチャージが始まった。
「お前たちに構ってる暇は無いんだ。見逃してやる。有りがたく思え」
背面から暴風を撒き散らす。オーバーブーストの駆動音が一層高く、甲高く響く。
立ち上がりつつ胸部装甲を閉じる。慌てふためく彼らを無視して桿を深く押し込むと、ラファルグ・ベータは二本の線を地に残しながら急加速して離陸した。
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