第6話

 ウエスタンビュー。

 それがこの村の名前であった。夕暮れ時の深紅の光が射す中、ウェルカムと、英語で書かれたゲートをくぐる。

 乾いた風に砂が混ざり込む。

 砂塵に痛んだ木造の街並みで、あちらこちらにギアフレームが佇んでいる。どれもこれも砂埃にまみれており、薄汚れて傷がつき、新品同様のラファルグ・ベータとは違う。

 装備しているパーツも統一感の欠片も無く、有り合わせの最も強い武装を装備しているようだ。

 ガラの悪い連中の視線を浴びながら通りを行く。

 デフォルトの服装に、デフォルトの機体と、見るからに新規の服格好なのだから、仕方ないと言えば仕方ない。ここでキルされてしまえば機体も失いかねないのだが、それでもウエスタンビューにやってきたのには理由があった。

 通りに並ぶ一軒の店の前に、いぶし銀のギアフレームが仁王立ちしている。看板こそ掲げられてはいないが、看板代わりのギアフレームは相変わらずで、村のどこからだろうと見てわかる。

 ギアフレームの股下を抜けてスイングドアを押し開ける。薄暗い店内は古びた棚が窓をも潰して並ぶ。棚という棚の全てには大量の品が雑多に並び、ギアフレームのパーツから護身用の銃や刀剣、衣服にライター、煙草もあった。

 床に転がるギアフレームの銃を跨ぐ。

 店最奥の誰もいないカウンターには年代物のレジスターと、踊る人形が置かれている。アキラが棚の品を眺めていると、奥の扉から長身の男が姿を現した。

「傷を付けるなよ。ウチの大事な商品だ」

 茶色のベストにジーンズ、頭にはガロンハットを乗せている。腰に下げた銃は二丁で、いずれもいぶし銀のリボルバーだ。

「久しぶりだな、ギンジ。元気そうでなによりだ」

「あぁ? 誰だお前は。出ていけ。ウチは会員制だ。新規の知り合いなんて俺にやいねぇぞ」

「そう言うな。私だよギンジ。わからんか? アルカディアのマスター、アキラだ」

 ギンジの目が見開かれる。だがすぐに顔を逸らすと、小馬鹿にしたような笑みを湛える。

「そんな訳あるか。さっき来た黒いギアフレームあれはなんだ。ゴッド・シリウスはどうした」

「訳あって新規データで始めた所だ」

「用があるなら本垢で来れば良いだろうが。口調は確かにアイツだが信用ならねぇ」

「ならばアルカディアに通報しよう。アルティメットモジュールの売買を行なっている店がある、とな。アルカディアの連中は徹底的にお前を潰しにかかるだろう」

「待て待て。何を根拠にそんなことを言いやがる。アルティメットモジュールは貴重品だぞ。ウチで取り扱ってる訳ねぇだろう。適当な事を言うんじゃねぇ」

「では、これはどうだ」

 アキラは言って腕を組む。

「二年前、アルカディアはアルティメットモジュールの密売していた大規模クランを追っていた。だが尻尾を掴めずに居たところ、愚かにも私にアルティメットモジュールの取り引きを持ちかけて来た男が居た。その男はアルカディアによって捕縛されたが、アルカディアへの協力と引き換えに解放される事となった。その男がお前、ギンジだ」

「確かに昔、アルカディアには世話になった。その事を知っているんだから、お前はアキラなんだろう。だがな、本当にアルティメットモジュールの取り引きなんてしちゃいねぇ。なんならいくらでも店の中を見てもらっても構わねぇぞ」

「それは残念だ。アルティメットモジュールを言い値で買おうと思ったんだが。無いのなら仕方あるまいな」

 そう言って背を向けた時だった。

「ちょっと待て。話はまだ終わっちゃいねぇ。取り敢えず俺とお前、二人っきりで話そうじゃねぇか」

 ギンジは親指で店の奥を示す。

「いいだろう」

 カウンターを越え、店の奥の小部屋に入る。いわゆる客間のようで、厚手のカーペットに革張りのソファ。重厚な木のローテーブルには見事な細工が施されている。壁には山羊の頭骨が掛けられており、すぐ隣には大きな振り子時計が時を刻んでいた。

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