第5話
振動と共に駆動音が響き渡る。タッチパネルを光が満たし、全てのモニターに伝播する。スピーカーから外部の音が流れ込み、凄まじい騒音を奏でる。カメラの明度が調整されて、ギアフレームが納まる無数のハンガーを映し出す。
「ラファルグ・ベータ。地球への投下準備を始めます。七番カタパルトへ移動します」
凄まじい振動が身体を襲う。
ラファルグ・ベータは固定されたまま台車に移り、レールに沿って移動する。赤、白、青、黄、黒、紫と、種々様々なギアフレームの間をゆっくりと抜けて行く。警報と、赤い回転灯の光る扉の奥へと移ると、機体は回転し、少し上昇して停止した。
回転灯の光の中、閉ざされた扉に七の数字が浮かぶ。
左右と頭上、そしてタッチパネルに表示された信号の全てが赤い光を放つ。どこかでカタパルト出撃する音と振動が響くと、七の扉が開きだす。
トンネルを直進した後停止する。カタパルト射出口の先で、青い星が輝きを放つ。それは大きく、輪郭は朧げながらも、白と、緑の模様が浮かぶ。
もう一度、カタパルト出撃の音が響くと、青白い光が地球に向かっていくのが見えた。
「機体、武装、共に万全です。地上に降りてアナタがどこに行くのか。何を成すのか。全ては自由です。闘争に明け暮れるもよし。商売に精を出すもよし。未開の地を探索するもよし。楽しみ方はアナタ次第です」
さらに一機、地球へと向かう。青白い光を残して飛んでいく。
無数のアームがラファルグ・ベータの拘束具を外すと、システムメッセージが言った。
「ギアフレームのロックを解除しました。カタパルトの操作権限を委譲します。信号が変わり次第、ご自分のタイミングで出撃してください」
手首を楽に、操縦桿を握り直す。大きく息を吸い込んで、目を閉じ、そして顔を上げる。ゆっくりと吐き出せば、両の目を開いた。
信号が全て青に変わる。
目一杯に桿を押し込む。
凄まじい加速と共にシートに身体が押し付けられる。後ろへ流れる光の中を一気に抜けると、星々の輝く宇宙へと飛び出した。
地球の重力に引かれていく。
予測された着地地点が表示されるも、機体が揺れる度に更新していく。タッチパネルを操作して、記憶を頼りに座標を入力するとオートパイロットに切り替える。
青々とした山を眼下に、渓谷を越え、海へ飛び出す。自動操縦と弾道飛行に任せて高度を徐々に落としていく。機体が大きく揺れた時、炎が機体を包み込んだ。
大気圏に突入していく。
すさまじい振動と暴風の音の中、耳障りな警報が響く。タッチパネルには外気を示すメーターが赤く光り、危険域であると告げる。無視して眼下に目を向ければ、雲間に浮かぶ浮遊都市が姿を現した。
この世界で唯一アルカディアが保有する最大級の戦艦であり、文字通り都市機能が備わっている。住民はクランメンバーに限られ、アルカディアに所属していないプレイヤーは一人として存在しない。
数多の飛行戦艦が停泊している外縁部から内へと向かうにつれて立ち並ぶビルが高くなっている。高層ビルが林立している中心部にはガラスの巨城が鎮座しており、たった一つの流星をガラスのドームに映し出す。
警報が止む。
外気温が低下し揺れも落ち着く。
夜の海を越えて、山脈を越え、砂漠の上空を西へ飛ぶ。砂漠を過ぎ、ステップ気候の乾いた大地の更にその先、ついに村の光が見えて来た。
砂埃を巻き上げながら速度を殺す。そして砂地の上に着陸する。
片膝をつき、胸部装甲を開く。慎重にコクピットから飛び降りると、両手を組んで伸びをした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます