第2話
ガラスの天井が機体に合わせて解放される。誘導灯が点滅し、広間へと徐々に高度を落としていく。暴風と、轟音を、辺りに響かせ撒き散らしながら、足を着け、そして地を震わす。
降下する深紅の機体の姿を見て、アキラは思わず立ち上がった。
「シニスター・オブ・アンタレス。戻ったか、ツルギ」
スラスターが停止する。そして赤の機体が片膝をつく。
片手にはギアフレーム用の盾と、もう一方にはライフルを持つ。連射の効く、実弾タイプのライフルで大砲のように巨大であった。
「アキラ!」
放熱し、幾重もの胸部装甲が開く。コクピットがせり出し、ドライバーの姿が星空の下に晒される。
白の軍服に手袋と外套を纏うは、横長の細い眼鏡を掛けた男であった。
「ツルギ、久しぶりだな。元気そうで何よりだ」
「アキラ」
ツルギは呟き、眼鏡を上げる。顔の半分を覆う程の長い黒の前髪が無音の風になびく。レンズが星明かりに輝いたとき、静かな口調で言った。
「いったい今まで何をしていた」
「私は私で忙しかったのだ。許してくれ」
「忙しかった? 一年間も何も言わずに消えたクセに」
「仕方なかったのだ。私とて色々あった」
「僕らだって。アンタが居ないクランをずっと守ってきた。いつ帰ってくるかも分からないアンタ無しで守ってきた。なのに今更、お前はのうのうと戻ってきた。僕らの苦労もしらずに」
わるかった、とも言えず黙ってツルギを見上げる。
ツルギがギアフレームの操縦桿を握り直すと、装甲が閉じ、アンタレスは立ち上がった。
「アンタは知らないと思うが、長期間ログインしなかったことでマスター権限は僕に移った。今やアルカディアは僕の手にある。この浮遊都市はもちろん、クランに帰属するアンタの機体も、僕の一存で全て決められる。Sランクアルティメットモジュールを搭載するホワイト・レイ・シリウスは今後もアルカディアが保有する。だがアキラ、お前はもう、僕たちにとって必要ない。アンタ無しでやっていけると、この一年で悟ったんだ」
「ツルギ。私とて止むを得なかったんだ。できることなら私も」
「いまさら何だ」
赤色の機体の頭部に光が灯る。銃口をアキラへと向けるとツルギは言った。
「アキラ。マスターの名の下にアルカディアから追放する。お前はもう、二度と楽園に戻れない。地上で足掻き続けるがいい」
「待てツルギ! 私は!」
言い終わらぬ内に、テレポーターの光が包む。手を伸ばすも空を掴むばかりで何にも届きはしない。光が消え失せ視界が晴れると、どこを見ても砂、砂、砂の砂漠であった。
歯を食いしばり、メニューからギアフレームを確認する。存在するはずの自分の機体、ホワイト・レイ・シリウスは無く、当然呼び出しも受け付けない。機体がロックされています、の警告文を苦々しく睨みつける。
星の光に満ちる中、地を叩くと腹の底から叫びあげた。
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