#4 つながったつながり

伶依れいっ!」


 揺さぶられて目を開くと瑠生子るいこの半泣きの顔――こいつの泣いた顔初めて見たかもって、瑠生子の額の数字「85」?

 周囲を見回すと、廃墟の住宅側の玄関前。瑠生子が運び出してくれたのか? さすゴリ。


「すまねぇ」

「どういうこと? 全部説明してもらうからねっ!」


 瑠生子の背後にはシジュも居る――シジュの額の数字は「8」。大丈夫なのか?


『僕も助けに行ったんだけど、何もできなかった。このお姉さんがレイを担いでここまで運んでくれたんだよ』

「ねぇ、どこ見てるの? それともまだナニカいるの? 私、さっき急にオバケが見えるようになっちゃって」


 混乱した頭を整理する。

 俺はさっき油断して悪霊の攻撃をたくさん食らった。短期間に大量の「存在」を失うと意識が飛ぶのかもしれない。瑠生子がここまで俺を運んできて、俺の「存在」を回復までしてくれて、そのせいで一時的に幽世かくりよに近づき霊が見えやすくなった。そしてシジュも自分を顧みず俺を助けようとしてくれた――ってところか。


『レイ、ごめんね。僕は役立たずだ……このまま消えた方がいいのかも』


 シジュが泣きそうな顔して玄関へ向かうから、俺は慌ててシジュの手をつかんだ。


「二人ともありがとな。瑠生子、細かい話は家でする。シジュも絶対に憑いてこい」


 呆然と俺を見つめる瑠生子の額の数字が「86」……え、何こいつの回復力。瑠生子ってば「存在」まで筋肉なの?


『存在の力はね、生きようって力が強い人ほど、そして100に近いほど回復力が強いっぽいんだ』

「シジュ? シジュって……紅葉坂もみじざか君の行方不明のお姉さんの名前じゃない?」

「紅葉坂ってモミジのことか?」

『え、僕の弟? もしかして栄斗えいとのこと?』


 そういやモミジの本名は紅葉坂栄斗だった気がする――って玄関から悪霊が這い出してきている。一旦退かないと。




 なんとか無事に部屋まで戻ってきた。

 ばーちゃんも維知も寝ているし、誰に気付かれることもなく。


「……伶依の部屋来るの、小学校以来かも」


 妙にモジモジしてる瑠生子には違和感しかないが、すでに「95」まで回復しているの本当にすげぇな。俺の十倍くらいの回復力じゃないのか?

 でも、これなら可能かもしれない。


「早速だけど、状況の説明をしながらシジュを助ける」

『え、僕は維知君の次じゃないの?』

「シジュに消えてほしくない。瑠生子、お前は俺の左手を握っててくれ」

「にぎっ……う、うん。わかった」


 今までの経緯を説明しながら、シジュの頭に「存在」を「1」ずつ送る。一度にに大量に送ると廃墟あそこでの俺みたいに意識が飛ぶかもしれないし。

 やがて説明が全て終わったとき、シジュの「存在」もようやく「51」まで回復できた。瑠生子の超回復ペースが落ちてきたこともあるんだけど、ソレ以上にちょっと問題が発生した。


「これ、きっつい!」


 シジュが靴と靴下と半ズボンとを脱いだのだ。


「ねぇ、突然現れたんだけどこの人がシジュさん?」


 シジュはすっかり俺たちと同じくらいの姿になっていた。白セーターの裾をぎゅっと引っ張ってギリギリパンツは隠しているが、元のサイズが子供用なので超ミニスカ状態。しかもそうやって引っ張っているからか暴力的な胸囲がやけに強調されて大問題だ。

 幽世かくりよに近づくと時間が止まるって聞いてたけど……。


「終ー了ーッ!」


 不意にゴリラの平手打ちが俺の視界を塞いだ。


「シジュさんには私の服を着せてくる。スケベ伶依はここで反省してろよな!」


 いつもの瑠生子に戻ってちょっとホッとした。




 だいぶ経ってから瑠生子とシジュ……紫珠シジュが戻ってきた。

 瑠生子がモミジの家のことを知っていたのは、モミジに助けられたことがあったからだと。


「伶依が知らないだけだよ。幼馴染の私を人質にしたら伶依に勝てるんじゃないかって考えるバカも昔はいたんだ。でもそれを紅葉坂君が助けてくれて。自分の力で正々堂々戦わないと意味ないんだって」

「へぇ、栄斗ってば僕の言いつけ守ってるんだ」

「自分が弱いかからお姉さんが戻ってこないんだ、みたいなこと言っていた」


 どうやらモミジは超シスコンの紫珠ラブで、紫珠は強い男が好きで、隣小の俺の噂を聞きつけて見に来たらしい。で、そこで寂しそうにしているちっちゃな子を見つけて遊んであげているうちに「存在」を減らしていって……というのが真相のようだ。


「っつーか、それ紫珠が神隠しになったのって、俺のせいじゃんか」

「でも、助けてくれたのもレイだよ」

「あとさっき瑠生子、俺に腹パンすげーしてきたけど、俺は紫珠のこと男子だと思ってたんだからな! さっきまで小学生の姿だったんだぜ!」

「本当に?」


 瑠生子と俺は紫珠を見る。髪の毛がものすご伸びてる。腰より長く。実は爪もすごく伸びてて大変だったらしい。風呂では三回くらい体を洗ったって……そういや風呂といえば、思い当たるフシがないでもなかった。

 ずっと風呂入ってないだろとか久々に布団で寝てもいいんだぞとか言ったとき、妙に顔赤くして断っていたっけ。


「よし。とりあえず紫珠の家行くぞ」

「今から?」

「もう朝だ。問題ないだろう」


 いつの間にか窓の外が明るくなっていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る