第2話

「いまや人類の七十パーセントは地球外に住んでいます。地球のオゾン層が蒸発して地面の八十パーセントが海中に没した今、地球は我々の母なる故郷ではなくなったのです。しかしながら、落胆してはいけません。我々人類はこれまでの歴史上様々な困難を『技術』によって克服してきました。そして、宇宙はいまや大航海時代に入ったのです。航海術の開発により世界が広がったように、光速度の移動手段が我々に新しい時代を呼び寄せたのです。我々は進化していきます。そして新たな発展の時代を迎えるのです。」

 フィリップ・クロード大統領が右手を力強く突き上げ、壇上で見まわした。五十代で銀髪長身鷹鼻のクロードは威厳に満ちた表情で自信たっぷりだった。

演台には圧倒的な支持の声が飛び、フィリップ大統領は満足した表情でバックステージに消えていった。速足で歩くフィリップ大統領にハン大統領補佐官が歩み寄り耳打ちをした。フィリップ大統領は驚きの表情と共にハン大統領補佐官の顔を見て、厳命した。

「何としても探して、私のところにつれてくるんだ」

ハン大統領補佐官が小さくうなずき、離れた。フィリップ大統領は警護団に囲まれて歩き去った。

フィリップ大統領は地下の格納庫でシャトルに乗り込むと、シャトルは建物から離れていった。シャトルは縁台のあったスタジアムから旋回して首都の中心部にある大統領邸宅にむかった。

「いよいよか」

大統領は眼下に広がる湖をみて独りごちた。

ついに首都の間近まで水が迫ってきたのだった。時間の猶予は失われていた。もうすぐ地球上から地面がなくなる。人類には光速の宇宙船の次のブレークスルーが必要だった。宇宙空間を故郷にできる新しい種が、それはもちろん人類の下僕として働くのだ。フィリップ大統領は表情を硬くして眼下に広がる水に沈みつつある最後の首都を見ていた。

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