第54話 秋山の夢
「春風、女優になるんだって?」
そう言ったのは秋山だった。
「な、なんでお前が知っているんだよ」
「本人から聞いた」
僕しか知らないと思っていたことをこうもあっさり言われるとは思わなかった。
「確かに今回、春風は主演じゃなかったけど、演技の才能はあると思うよ。女優になるのは時間の問題だな」
「やっぱりそう思うか」
「あぁ。ついでに言わせてもらうが、俺も夢が決まった」
「え? 何?」
「歌舞伎俳優になる」
「歌舞伎俳優って親父さんと同じ道を進むってことか?」
「あぁ、二世タレントとかいるからコネになっちゃうが、それでも親父を超える歌舞伎俳優になりたい。だから今のうちに腕を磨くんだ」
「そ、そうか。頑張れよ」
「勿論、夢で終わらせるつもりはない。これから親父の仕事に同行して技術を盗むつもりだ。親父を超えるにはそれくらいしないとな」
身近な二人がこうも大きな夢を持つことに壁を感じた。女優に歌舞伎俳優。それに比べて僕は何をしているのだろうか。
「夏宗はどうするんだ。何かやりたいことはないのか」
「僕はまだ」
「まぁ、まだ時間はある。焦ってブラック企業に行くなよ」
「その前に僕よりも沙夜だ」
「冬月か。世話役の件もあるしな」
「いや、もう世話役は辞めることにするよ」
「それは冬月を見捨てるってことか」
「違う。沙夜は僕がいなくても充分やっていける。もう僕はお役御免だろう」
「本人にちゃんと言ったのか?」
「いや、まだ」
「ちゃんと向き合うんだな」
「うん。分かっている」
何故か、僕は沙夜が悲しむ顔が浮かんだ。
「秋山。ありがとうな」
「なんだよ。急に。気持ち悪いな」
「そう言うなよ。なんか言いたくなっただけだ」
「俺、思うんだけど。夏宗と冬月さんの関係っていいなって思うんだよ」
「どこがいいんだ?」
「お互いを信頼しているっていうか、頼りしたり頼りにされたりって感じがいいなって。お前も自分でそう思わないか?」
「僕にとって沙夜は特別だから」
「特別ってどんな?」
「……それは」
なんだろう。僕にとって沙夜ってなんだ。
自問自答しながら答えを探していた。
そして、出た答えがこれだ。
「ただ、恋愛としてじゃなくてパートナーとしてって言う意味の特別だと思う」
「そうか……」
そう言って秋山は頷いた。
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